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秀隆SIDE 3
「おかえりなさい」
玄関から音がし、出迎える。
いつもなら明るくただいまと言うのに
「ただいま。ちょっと良いか?」
彩愛は曇った表情をしていた。
どうしたんだろう?珍しい。
職場で嫌な事でもあったのかな。
う~ん?
促されリビングのソファーに座る。
いつも通り抱き上げようとしたら断られた。
彩愛は常に全て俺の好きにさせてくれているからコレは珍しい。
「彩愛。何かあった?」
そっと頬に指先を近付けたらスっと距離を置かれた。
触れる筈だった手が空回りして物足りない。
「俺はお前が好きだ。何よりも大切な家族だと思ってる」
静かな口調で紡がれる言葉。
何だろう。好きだと言われているのに何故か突き放されている気がする。
「秀隆が喜ぶから、自分がされて嬉しいから、全て秀隆の好きにさせていた。でも今の関係は普通じゃない。このままじゃ俺もお前もダメになる。互いに依存し執着し合ったままじゃダメだ」
ダメ?
って、何言ってんの?彩愛。
そんなの今更じゃないか。
元々俺は彩愛が好きだった。
俺だけじゃなく彩愛も俺を好きになって欲しかった。
俺が彩愛が居ないと生きていけない様に彩愛にもそうなって欲しかった。
だからそう仕向けていたのに何故今になってそんな事を口にするんだ?
「いつか秀隆は結婚して子供を作って俺の元から旅立つだろ?」
はぁ?
何それ。
彩愛は俺にどうでもいい奴と結婚しろというのか?
彩愛しか愛せず彩愛しか要らないと思っている俺に違う人を愛せと?
そんなの無理だ。
出来るわけがない。
「俺は結婚しないよ。彩愛以外要らない。彩愛だけが側に居ればそれで良い」
コレが本心だ。
俺の全ては彩愛の物。
彩愛が居ない世界なんて要らない。そんなの地獄だ。
生きていく意味なんてない。
なぁ、彩愛は違うのか?
俺が居なくても平気?
「ごめんね秀隆。俺のせいだね。俺だけを見てくれるお前が愛おしくてずっと側に置いていた。何をされても全て受け入れていたのは嬉しかったからだ。幸せだった。だけどダメなんだ」
何で?
嬉しいなら幸せなら良いじゃないか。
突き放す必要なんてない。
「今迄ごめんな。俺が側に居るとお前が幸せになれない」
は?
バカなの?
彩愛の側に居るのが幸せなんだよ。
何でソレが分からない?
「だから距離を置こう。普通の親子に戻ろ?これから家の事は全ては俺がするし、もう世話とかもしなくて良い。秀隆は自分の事だけ考えて行動してくれないか?」
「俺がしたい事は彩愛の側に居て彩愛を愛する事だよ」
「…………っ」
スっと目尻で耐えていた涙が流れ落ちる。
嗚呼、彩愛は涙も綺麗だ。
だけど見たくない。
笑っていて欲しい。
なぁ、彩愛はどうしたいんだ?
どうしたら笑ってくれる?
「俺から離れたいの?」
フルフル左右に動く頭。
「嫌いになった?」
「……っ、違う!!嫌いになんかならない」
そうか。ならないのか。
良かった。
「彩愛は俺に結婚して独立して欲しい?」
「………分からない。でもそうなるのが普通だから」
普通…ね。
それは世間一般でいう幸せだよね。
幸せは人それぞれ。
決め付けは良くないよ?彩愛。
でも彩愛がソレを望むのなら叶えよう。
俺の全ては彩愛の物なのだから。
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