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第3話
もうすぐ彩愛が大学を卒業する。
流石にもう俺の事は忘れて違う人を好きになっているに違いない。
悔しいし寂しいが、手放したのは自分だ。
今迄は逢うのが怖かったが、家族も出来たしそろそろ二人っきりで逢っても邪な感情に流される事はないだろう。
手放してスグの時はドロドロに甘やかして俺だけしか見えなくしてやりたいといった醜い感情をセーブする為、逢う時は必ず可奈子を連れてきていた。
なので完全に二人だけで逢うのは久しぶりだ。
カフェで珈琲を飲みながら卒業祝いに何が欲しい?って聞いたら
「アキちゃんが良い。アキちゃんが欲しい」
可愛らしい台詞が耳に入り、唖然としてしまった。
口にした瞬間慌てて
「今のなし。何でも良いから。今迄通りアキちゃんが選んで?」
言い直した彩愛。
こんなに長い間放置していたのにまだ好きでいてくれたのか。
嬉しくて泣きそうになった。
俺に遠慮して必死に取り繕う彩愛。
なんて可愛いのだろう。
嗚呼、やはりダメだ。
手放せない。
「良いよ。おいで?」
逃げようと踠く彩愛に俺は悪魔の笑みを浮かべた。
「好き。アキちゃん。大好き」
腕の中、彩愛は泣きながら俺への愛を口にした。
こんなに満たされるのは久しぶりだ。
可奈子の事は好きだ。
秀隆も家庭も大切だと思う。
だが、彩愛とは比べ物にならない。
昔も今もドロドロとした俺の醜い感情を引き出してくれるのは彩愛だけ。
愛しいと同時に怖くもある。
ピンク色の唇に触れて舌を差し入れて甘い蜜を味わう。
首筋や腕や胸元を舌先で味わうと砂糖菓子よりも甘いお菓子の味がする。
サラサラの髪は幾ら撫でても足りない位触りたい。
潤んだビー玉の様に綺麗な瞳はどんな味がするのだろうか。
甘い甘い極上の飴玉に違いない。
久々に触れた後孔は完全に閉じていて侵入を拒んだ。
が、ゆっくり時間を掛けて解すと、其処は天国の様に甘美に俺を迎え入れた。
ひっきりなしに零れる高くて甘い艶めいた声。
必死にしがみつく折れそうな位華奢な腕。
紡がれる愛の言葉と繰り返し呼ばれる俺の名前。
嗚呼、幸せだ。
こんなに幸せな世界から俺は目を背けていたのか。
だが、此処に逃げてはダメだ。
此処にあるのは確実に彩愛を傷付けてしまうだろう未来。
「卒業おめでとう」
優しい幼馴染みの仮面を被り俺は祝いの言葉を告げると彩愛の中からまだ元気な物を取り出した。
卒業祝いに抱いたが、その後は幼馴染みの振りをした。
久々に抱かれた事により想いが溢れだしたのだろう。
彩愛は逢う度に泣きそうな顔で俺を見た。
傍に来て?抱き締めて欲しい。
そう瞳が訴えている。
だが俺はそれに気付かぬ振りをした。
もうすぐ彩愛の誕生日だ。
いつもは仕事や何かしらの用事が入るから休みが取れなかったが、今年は珍しく休みと重なった。
可奈子はママ会で秀隆も連れて遊びに行くし、折角だから彩愛と1日一緒に居てやるか。喜びそうだしな。
軽い気持ちで彩愛に提案したら誕生日プレゼントはデートが良いと言った。
ったく、イチイチ可愛いんだよバカ。
甘やかしてやりたくなるじゃないか。
彩愛への誕生日プレゼントデートなのに、まるで自分へのプレゼントの様に感じた。
余りに楽しみにし過ぎて待ち合わせ時間よりかなり早く着いてしまった。
恥ずかしいな。彩愛にバレたら笑われてしまいそうだ。
まだ時間あるし何か飲み物でも買うかとコンビニ方面に目を向けたら、何故か彩愛が見知らぬ男に絡まれていた。
あ~もう、なんって格好してんだよ。
其処に居たのはカジュアルだが中性的にも見える服装をした彩愛だった。
髪の毛ふわふわにしてるし、萌え袖だし、可愛過ぎだろうが。
断っているが、しつこく絡む男を追い払う為彩愛に近付き、早めのデートに突入した。
今日の彩愛はいつもより可愛い。
そのせいかいつも以上に周囲からの視線が煩い。
牽制する為に終始手を繋いでいた。
ホテルのレストランでランチを楽しんだ後、休憩も兼ねて部屋に移動した。
最初は軽くキスして一休みしたら帰ろうと決めていたのに、やはり彩愛は俺を狂わせる。
一度触れたらアウトだった。
もっと沢山キスしたい。甘やかしたい。彩愛の中に入りたい。
そんな汚い欲望に呑まれて俺は彩愛を抱き締めた。
どんなに離れても俺が結婚して子供を作っても変わらず愛してくれる彩愛。
俺だけを見てくれる愛しい存在。
嗚呼、もう誤魔化しきれない。
彩愛が好きだ。
愛してる。
この感情は純愛じゃない。
狂っていると自覚している。
けれど、もうこれ以上隠し通せる程俺は強くない。
「好きだよ」
初めて想いを口にした。
好きという気持ちをどう表して良いのか分からない。だが、初めて告げた好意に彩愛は涙を流しながら喜んだ。
ほんっと俺バカだな。
こんなに喜んでくれるのならもっと早く言ってあげてれば良かった。
「愛してるよ彩愛」
優しい声色で愛を囁き、ふわり髪を撫でた。
その日の夜、俺は可奈子に彩愛への気持ちを伝えた。
彩愛を愛していると完全に自覚した以上、可奈子に隠すのは悪いと感じたからだ。
「………そっかぁ…」
可奈子は小さく呟くと泣きそうな顔で
「ねぇ明日実家に一緒に行ってくれる?」
そう告げた。
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