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第2話 助っ人登場!……って、えぇ⁉︎
仮眠室の中にあるシャワー室で体を洗って目を覚まし、冷蔵庫から冷凍おにぎりを出してレンジでチンする。
ラスイチのエナジードリンクとホカホカのおにぎりでお腹を満たしつつ、パソコンを起動して仕事に取り掛かった。
キーボードを打ってると頭は冴えてくるんだけど、目がしょぼしょぼする。
眼鏡はブルーライトカットのレンズを使ってるから疲れにくいはずなんだけどなぁ。
ほぼ徹夜みたいな状態は数日しか続いていないんだけど、もう辛いよ。
こんなんで俺、あと数年後から社会人やっていけるかなぁ。
不安しかない。
思考が沈みかけていたとき、生徒会室にコンコンコンッとノックの音が響いた。
ここの出入口はオートロックになっていて、一部の教師と生徒会役員が持っているカードキーでしか開かない。
誰かなって思ったけど、ハッと気付いた。
そうじゃん!
理事長が応援を呼んでくれたんだった!
すっかり忘れてた!
俺は急いでオートロックを解除し、勢いよくドアを開けた。
「おはよーございま……す……⁉︎」
助っ人を招き入れようとして、カチンと固まった。
だって、そこにいたのは風紀委員長の鷹司千里 だったから。
一七五センチある俺より五センチくらい高い身長とがっちり筋肉質な体型に、おでこが見えるくらい短いツーブロの髪。
キリッとした顔はモデルみたいに整ってる。
対して俺は長めの髪を後ろでひとつに結んでる。
結んだ髪は子犬の尻尾に見えるらしい。
筋肉はね、千里くんほどじゃないけどついてるよ。
目が垂れ目だから、なんか幼く見えるみたいなんだよねぇ。
「千里くん?」
「颯人、おはよう。酷い顔だな」
千里くんのすらりと伸びた指先が眼鏡の赤いフレームを潜って俺の目元を撫でる。
すりすりとなめらかに俺の目元を泳ぐ千里くんの指はあったかくて、疲れた目に気持ちいい。
じんわりと広がる心地よさにほわほわするんだけど、それと同じくらい心臓がドキドキしてる。
「やっぱり? あんま見られたくなかったなぁ」
だって、俺は千里くんが好きなんだから。
好きな人に疲れてる顔とか、最低限しか整えてない身だしなみを見られるのは嫌だった。
千里くんが来るって知ってたらもっと気合い入れて身支度したのに……。
「ごめん。でも、俺以外には見られてないだろ?」
「もちろん。ずっと一人でここにいたからねぇ」
「そっか。じゃあ、理事長から聞いてるよな」
「理事長? え、応援って千里くんのこと?」
「そうだが?」
目を見開いて驚く俺を見て、千里くんは首を傾げた。
いやいや当然の反応だからね⁉︎
だって千里くん、風紀委員長だよ?
風紀委員会も生徒会と同じくらい体育祭の準備で忙しいはず。
理事長の頭どうなってんの?
ひよこさんでいっぱいになってるの?
でも、千里くんが来てくれたら百人力。
風紀委員のみんなには悪いけど、ちょっと借りるね。
びっくりしたけど、千里くんが来てくれて安心した。
「ありがとう。あ、中にどうぞー。千里くんはね、ここの席使って」
千里くんを生徒会室に招き入れ、窓際にある会長の席に案内する。
すると、千里くんがものすごく嫌そうな顔をした。
「そこ、会長の席だろ」
「うん。今は俺も一時的にアクセス権もらってるんだけど、それ以外で職員用システムにアクセスできるの、会長のパソコンしかなくて。ごめんねぇ」
千里くんと会長が不仲、というかライバル? なのは知ってるよ。
二人とも良い意味で意思が強いから、それぞれの立場からの正論をぶつけ合っちゃうんだよねぇ。
いつも最終的に良い感じにまとまるから心配してないんだけど。
「それなら問題ない。風紀のパソコン持ってきた」
「でも、生徒会のシステムには入れないでしょ?」
「理事長に頼んでアクセスできるようにしてもらったぞ」
「聞いてないよ?」
「メールを送ったと言っていたが?」
「本当に? ちょっと待って!」
慌ててパソコンの前に戻ってメールを開くと、そこには理事長からの連絡がちゃんと来てた。
しかも、信じられないことにね。
「既読にしてる! なんで⁉︎」
「疲れてるんだろ。一人でよく頑張ったな」
千里くんが机に崩れ落ちる俺の肩をポンと叩いて宥めてくれた。
優しいなぁ。
そういうところ、本当好き。
でもね、いつだって子ども扱いされる。
どう考えたって恋愛対象には見られてない。
優しくされるのはもちろん嬉しいんだけど、やっぱりズキッと胸が痛くなる。
高校に進学するまでは、附属中学校の同級生の中の一人っていう認識しかなかった。
でも、高校入学式後に中庭を散歩してたら、学園に出入りしている清掃業者に不埒なことをされそうになっている子を見つけてね。
俺、これでも華道の家元の三男でしょ。
護身術を習ってるから助けようとしたんだけど、力負けしそうになってね。
ヤバいって思ったときに、千里くんに助けてもらったんだ。
凄かったんだよ。
綺麗なのに力強い動きであっという間に男を制圧して、風紀に連絡して、警備員さんに引き渡して……。
俺が襲われることはないだろうから必要ないんじゃない? って思って護身術の訓練は手を抜いていたんだけどね。
その強い姿に、柄にもなく憧れた。
だから、千里くんに護身術を教えてってお願いして、それ以来、昼休みや放課後に護身術と、ついでに空手を教えてもらってる。
千里くんから教えてもらう護身術や空手はすっごく面白いし、教え方が丁寧で優しい。
どんどん強くなってるのがわかる。
たまに千里くんの背中を地面に付けることもあるんだよ。
俺にだけ向けられた優しさじゃないってことは理解してる。
でも、ふと向けられた柔らかい視線。
一緒にお昼を食べるときに美味しかったものを俺にも食べさせてくれること。
話していると楽しくて時間を忘れること。
少しずつ千里くんの存在は俺の心の奥に住み着いて、じわじわと好きな気持ちが降り積もっていく。
気が付いたころにはどうしようもないくらい大好きになっていた。
俺が生徒会会計、千里くんは風紀委員長になって直接会う時間が少なくなっても、連絡は取り合っていて、おはようの一言だけのメールでも幸せになるし、ちらっと後ろ姿を見ただけでも嬉しくなる。
もちろん、会って話すのが一番幸せなんだけどね。
恋してると、なんでもない日常が特別に感じられるの。
凄いよね。
世界が変わったみたい。
でも、千里くんは会長のことが好き、なんだよねぇ……。
だって、いがみ合っているようには見えるけど、それってお互いの能力を認めてるからこそでしょ?
ライバルで、切磋琢磨して高みを目指し、ギャンギャン喧嘩していても息が合っているし、イベントを迎えるたびに仕事の効率が上がっていて、なんだかんだ楽しそう。
アオハルって感じ。
俺といえば、別に会長よりも秀でてるわけじゃない。
家柄も歴史が長いだけで格式はそんなに高くないし、見た目も会長の方が断然整ってる。
俺にだってコミュ力はそれなりにあるけど、人望も会長の方があるもん。
会長よりできるのは、役職の通り財務会計くらい。
勝てる要素、ほぼゼロ。
撃沈。
自然と大きなため息が出ちゃう。
でも、今はそんなこと考えてる場合じゃない。
目の前には大量の仕事が山積みになっている。
千里くんはこれを片付けるのに来てくれたんだもんね。
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