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第3話 お仕事ターイム!
「仕事のデータ、どれが終わってない?」
千里くんは俺のパソコンを覗き込んできた。そうそう、早く仕事しなきゃ。
でもね、この体勢は緊張する。
いつもほのかに千里くんから香るグリーン系の匂いがしっかり感じられるくらい俺の横にぴたりと体を寄せた千里くん。
そんなに密着したら心臓が口から出ちゃいそう。
嬉しいのと困ったのとで手が震えてきた。
俺は頑張って冷静を装い、マウスを動かす。
「え、っとねぇ……このフォルダ。作成済みと未作成済みに分けてるの」
「わかりやすいな。じゃあ、俺は会長と副会長の書類やるから、あとは頼めるか?」
「うん、わかった。ありがとう」
「どういたしまして」
ざっくり分担をして、仕事スタート。
千里くんは俺の隣にある書記くんのデスクにパソコンを置いて早速キーボードを高速で打ち始めた。
よし、俺もやりかけてた仕事に取り掛かろう。
できれば今日でほとんど終わらせたいなぁ。
そう思いつつ椅子に座りかけて、はたと思い出した。
お茶、出してない!
俺はそっと立ち上がり、自分のデスクの背面にある給湯室へ入った。
戸棚から電動ミルとドリッパーとタンブラーが一体になったコーヒーメーカーとコーヒ豆のパックを出す。
豆をミルに入れてスイッチを押せば、あとは自動で豆を挽いてくれる。
時間があれば手動のミルを使ったんだけど、今日は残念ながら割愛。
豆がすり潰される音を聞きながらケトルでお湯を沸かす。
千里くんには悪いけど、ちょっとだけ休憩。
ケトルの口から湯気が上がるのを眺めて一息ついた。
豆が挽き終わると同時にお湯が沸き、ゆっくりとドリップしていくと、コーヒーのいい匂いがしてきた。
うん、美味しそう。
ついでに自分のも淹れようしたら、千里くんが給湯室に入ってきた。
「コーヒー?」
「うん。ごめんねぇ、うっかり忘れちゃって」
「いや、構うな。いつもみんなに淹れているのか?」
「いつもは副会長が淹れてくれるの。でも、俺もコーヒー好きだから淹れ方教えてもらってるんだぁ」
「ふぅん」
そう言うと、千里くんはガラス越しに戸棚を眺め始めた。
そして、戸棚を開けて迷わず紅茶の入ったケースを取り出す。
「ちょっと使うぞ」
「え、コーヒー嫌だった?」
千里くん、いつもコーヒー飲んでるから好きだと思ったんだけど。
間違えちゃった……?
「違う。颯人はコーヒーよりこっちだ」
しょんぼりした俺の背中を撫でて宥めた千里くんは、紅茶の茶葉が入ったケースからはちみつ紅茶のパックを取り出した。
手際よく紅茶を淹れる千里くんの腕前は、素人の俺でも見惚れるくらい綺麗。
もしかして副会長よりも上手かなって思うくらい。
「本当はコーヒーよりこっちが好きだろ?」
「そうだけど、なんでわかったの?」
「俺と会うとき、だいたい甘い系の紅茶飲んでるからな」
「それ、無意識だったかも」
仕事のときはコーヒー一択。
だって、仕事できる人って、だいたいコーヒー飲んでるイメージがあるからね。
だから俺も真似して飲んでるの。
最初は苦くて平気な顔をするのも大変だったんだけど、今は酸味も苦味も楽しめるようになっていて、豆の種類とかにもこだわりが出てきたりしている。
でも、確かに俺は甘いものが好きで、ミルクたっぷりの紅茶やココアを飲みがち。
子どもっぽいから、外では控えてたつもりだったんだけどなぁ。
最後にミルクを足したら完成。千里くんは勝手知ったるといった感じで、コーヒーが入ったタンブラーとはちみつ紅茶のミルクティーが入ったカップを持ち、それぞれのデスクに運んでくれた。
「本当はちゃんと煮詰めて作りたかったんだけど、今はこれで」
「ありがとう」
「休む時間がないのはわかるが一息つこう。これならコーヒーより落ち着くだろ」
「そうだね」
コーヒーを飲む千里くんに合わせて、俺も淹れてもらったミルクティーを飲む。
はちみつとミルクの甘い匂いと温かさが疲れた体に染み渡る。
ほっと安心する優しい味。
「すごく美味しい。ありがとう」
「どういたしまして。このコーヒーも美味しいよ」
「よかった。それにしても千里くん、お茶も上手に淹れられるんだ。なんでもできるねぇ」
「できないこともあるさ」
肩をすくめる千里くんの顔には、言葉とは裏腹に自信に満ち溢れている。
わあ……千里くんの非公式親衛隊の子たちが見たら卒倒するやつだ。
「えー? 冗談はそのかっこいい顔だけにして」
「かっこいいか?」
「うん、かっこいいよ」
「ありがとう」
はにかむようにふっと笑う千里くん。
あれ、珍しく照れてる?
なにそれ尊い。
しかも、そうさせたのは他でもない俺っていう事実。
それを自覚した瞬間から、俺の心臓は激しく踊り出した。
どうしよう。
仕事どころじゃない。
いやいや仕事しろ、俺!
目の疲れに効く目薬を両目にさして眼鏡をかけ直す。
千里くんが淹れてくれたミルクティーを飲んで気持ちを落ち着かせれば、なんとか仕事モードに切り替えられた。
それからは、俺も千里くんも事務的なやり取りだけしつつ、ひたすらキーボードを打って溜まっていた書類をやっつけていく。
風紀委員長なのに、いや、だからこそなのかな。
千里くんの仕事には無駄がない。
初めてする仕事内容なのにきちんと要点を掴んでいる。
優秀な人って凄いなぁ。
俺も頑張らないとね。
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