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第6話 我慢、頑張ったよ?

 それから卒業まで、ほんっとうに長かったなぁ。    大好きな千里くんと一緒に居るだけで幸せなのに、その先が待ち遠しくてソワソワしちゃう。  欲張りになった俺は、とにかく千里くんとの時間を長くするため、休み時間は廊下で待ち合わせしたり、放課後は生徒会の仕事をササッと終わらせて寮に帰り、談話室で勉強したりゲームしたりした。  そうすることで、満たされない夜の欲を昇華してたんだぁ。    そんな俺と千里くんの行動と雰囲気で、俺たちが付き合い始めたことは学園中に知れ渡った。  そんなにわかりやすかったかなぁ?  友だちや親衛隊の子たちからはお祝いされたし、何故か家族にも知られていて、高級料亭で両家揃ってお祝いされたの。  気恥ずかしかったけど、でもやっぱり嬉しかったよ。    ただ不思議なのは、生徒会のみんなは喜んでくれた一方、千里くんへの当たりが強くなったこと。  会長は「俺たちの末っ子があのいけすかねぇ野郎に……!」ってメラメラと炎を燃やしていた。  おかしいよねぇ。  みんな同い年だし、誕生日で言えば俺が長男なんだけど。    ともかく、会長は今まで以上に千里くんを目の敵にしていたし、副会長たちはしばらく塩対応だった。  みんな、過保護が過ぎるよ……。  そんな会長たちを一年かけて宥めて俺の彼氏は千里くんだってことを認めてもらい、円満に高校卒業を迎えたのはつい一ヶ月前のこと。    勉強や家の仕事はもちろん、家事を疎かにしないって約束で、家族から同棲を許可された俺と千里くんは、千里くんのお母さん所有のコンシェルジュが常駐しているマンションに住むことになったんだぁ。  同棲開始は新年度の四月一日からって制約はあったんだけど、一年以上待ったから一ヶ月待つくらい平気だったよ。  でもねぇ……えへへ。  嬉しくて気が抜けるとニヤニヤしちゃう。    卒業式の翌日から昨日までの間、家具や家電を選んで荷物と一緒に運び込んだから準備は万端。  昨日の夜は家族で引越しパーティをして、今日から同棲スタート!    千里くんとは午前十時に新居で待ち合わせする約束になっている。  久我家専属のドライバーさんにマンションまで送ってもらい、時間ぴったりに玄関前に着いた。    ここが今日から俺と千里くんの家。  大好きな人と一緒に暮らすのがすっごく楽しみ。  約束していたキス以上のことも……って考えるとカッと顔が熱くなって、ついでに表情筋もゆるゆる。  千里くんとお揃いで買ったキーケースから真新しい鍵を取り出すと、さらにほっぺが溶けていく。    だけど、いざ鍵を開けるときは何故か緊張して、震える手でドアを開けた。   「お邪魔しまぁす」    途端、嗅ぎ慣れたグリーン系の香りが胸いっぱいに広がった。  俺を安心させてくれる匂いに、体の緊張が溶けていく。  ルームフレグランスはねぇ、俺のリクエストで千里くんがいつも使っているものになったんだぁ。  だって、ずっと千里くんに抱きしめられてるみたいでいいじゃん。   「おかえり」    顔の輪郭がなくなるんじゃないかってくらいに笑っていると、ラフなシャツとスラックス姿の千里くんがリビングから出てきた。   「あれ、千里くん。先に来てたの?」 「ついさっきだけどな。それより颯斗。お邪魔しますじゃなくて?」 「ただいま、だね」 「正解」    よくできましたって褒めるみたいに千里くんが俺の頭を撫で、頬にキスをする。  顔を上げた千里くんの顔ははちみつ紅茶よりも甘くて、なんだか色気がすごい。  ねぇねぇねぇ!  その顔、破壊力やばいってぇ……!   「顔真っ赤。それに……期待した?」 「千里くん、意地悪しないで」    ちょっとだけ背伸びをして千里くんに抱きつき、千里くんの肩口に顎を乗せて顔を隠す。    両想いだってわかったあの日から今日まで、触れるだけのキスより先のことはやってない。  ずっと我慢してたから、期待するのは当然でしょ?  それに、期待してたのは俺だけじゃないはず。   「ごめん。我慢できないのは俺だな」    その証拠に、千里くんは口で謝っているものの、俺のうなじに手を回し、体をさらに密着させてきた。  そして、器用に上体を後ろに引いて俺の顔を肩から下ろさせて目を合わせる。  至近距離だった千里くんの顔がゆっくりとぼやけて……。   「ん、ふ……ぁ……」    重なった唇。  いつもは触れるだけなのに、今日はそれだけじゃない。  千里くんは俺の唇を食べるように何度もチュッと音を立てて啄む。  くすぐったくて照れくさいけど、それだけじゃない。  じわじわと広がっていく熱は、確実に俺の体温を上げていく。    ひゃぁあああ!  これって、そういうお誘いでいいんだよね……?  卒業したんだから、もういいんだよね?    恋愛経験ゼロの俺はエッチをどうやって始めるのかわからない。  でも、きっとこれが合図な気がする。  だから、俺も千里くんの唇をちろりと舐めて、薄く開いた唇の隙間に舌を差し込んだ。  両想いになったあの日、初めてしたキス。  千里くんが俺にしてくれたキスを真似して、俺は千里くんの舌に自分のそれを絡める。    すると、千里くんもそれに応えてくれた。  舌のざらりとした感覚を楽しみ、時には口の中を撫で合う。    深いキスは二回目だから、まだ息継ぎが上手くできない。  でも、キスはとっても気持ち良くて、生きるために必要な呼吸さえどうでもいいくらい夢中になって唇を重ねる。    それがダメだったんだよね。  キスしているうちに、俺の体からカクッと力が抜けちゃった。   「ごめん。やりすぎた」 「俺もキスしたかったからいいの」 「そんなこと言うと止まれなくなる」    俺の体を余裕で受け止めてくれた千里くんは、濡れた唇から体に溜まった熱を艶めかしく溢した。  それをもったいないと思った俺はとんでもなくエッチなのかもしれない。    止まらなくていいじゃん。  だって、やっと卒業して、今日は同棲初日。  今はこの新居に二人きり。   「じゅ……準備、してきた……よ?」    蚊の鳴くような小さい声で伝えながら、俺の体を支えてくれていた千里くんの手を取り、お尻にぴたりと沿わせる。  うわわ、顔から火が出そう。    そう、俺は同棲初日だからと浮かれ、家でお尻を洗ってからここに来たんだよね。  自分でやるのはちょっと怖かったけど、もしかしたらと思って。    途端、千里くんの体がビクッと震えた。  あれ、間違えた?  不安で心臓がバクバクして、嫌な汗がじわりと滲む。   「颯斗」 「なッ、なに……?」 「次は俺に準備させて」    そう言って俺のお尻に手を回したまま歩き出した千里くんの顔に余裕はなかった。  あるのは、ゆらゆらと燃える春欲。  その壮絶な色香に、キスの先を期待する。  全身にピリッと痺れが走り、俺はゴクリと喉を鳴らした。

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