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第2話 未経験無許可不具合

始まってすぐ、カイは逃げ出したかった。 「ん…っふ…ぁ」 「少し力を抜け」 ベッドに落とされたカイは、重心の違うヴァルに仰向けのまま抑えられ、口付けられる。 厚い舌が、唇の形を辿るように這い、歯列を割って入ってくる。怯えるカイの舌を巻き込んで何度も吸われる。  しかし、熱くなっていく部分とは別に、体は岩のように固まっていった。 「むひ、ひゃ、むりぃっ」 ぶんぶん、と首を横に振れば、ヴァルは呆れた表情でカイを見るが、退く様子はない。黒のマントを脱いだ下は、生成の上衣であったが、布越しに隆起がわかるほどに筋肉質である。 「オメガだろう?一度くらい誰かと経験したんじゃないのか」 (そんなこと、言われたって。ないものは無いんだよ) でも、ヴァルがそういうのも仕方ないことだとわかっている。 オメガには、他の二種にはない発情期という特殊な期間がある。 主に成人すると訪れるそれは、自他共へ強烈なフェロモンを出し他の種を誘惑する。抑制剤は存在するが、高価で体に負担がかかりやすいので恋人や行きずりで散らしてしまうのが一般的だ。 「俺、発情期弱くて、休んでたら何とかなった、ので……なくて」 理由は、あれども成人男性として未経験申告は恥ずかしく、顎が震える。 「ーーそれを信じろと?」 「馬鹿にしてっ、オメガだったら誰にでも足開くわけじゃねえよ!!」 朝から起こった理不尽な出来事から途方に暮れる職探しまで、鬱憤がたまっていたのか涙が溢れて来る。 「そこまで言ってないだろ」 「言ったー!何だよ、俺が何したんだっていうんだよ!田舎から出て真面目に働いてなのに嫁がオメガだからって追い出されて、仕事探しもオメガだからうちでは無理とかどうやって生きればいいんだよ!!それもこれもこんな世の中にした王族が悪いんだああ!!」 「……聞き捨てならない。何で王族が悪くなる」 ヴァルの目付きが鋭くなる。 「だってそうだろ。ちゃんとやってる人間が上手くいかないのって上のやつが間違ってるからだろ…」 「それは、お前を追い出した上とやらが悪いんじゃないのか」 「じゃあ、そんな滅茶苦茶なことを許してる王族は、おかしいんじゃねえの…」 「……」 「いいよ。もう。嘘、ほんとは上手くいかなくて八つ当たりしてるだけで。好きにしてよ、俺行くとこないから」 「自棄を起こすな」 落ち着かせようとしたのか、伸ばされた手をカイは、弱々しく払い除ける。 「人を買って、子ども産ませるとか言ってる人間のいうことじゃない…」 ぐす、ぐす。とカイが鼻を啜り出した辺りで、ヴァルは体を退かした。 「やらねえの……?」 「この状態でできたら、獣だろうな。いやリウス将軍辺りなら据え膳と来そうだが」 リウス将軍は、ヴァランディアの英雄と呼ばれる生粋のアルファで、大変な艶福家として知られている。 「…不敬だぞ、ふふ」 場に相応しくない名前と、ヴァルの見た目からは想像できなかった言葉に思わず噴き出してしまう。 ベッドに横になりながら、隣に座るヴァルを見上げる。 「ごめん……お金払ってるし。約束守るよ」 女将に渡されていたロイセン紙幣五枚を思い出す。あれは、一般労働者の三月分の給料だ。 「大した金じゃない」 「んなこと言うなよ。ロイセン紙幣出してただろ。あれ一枚だけで一月凌げる金じゃん」 「一月は無理だろう」 「俺、昔あの半分で暮らしたことあるよ」 随分驚いた表情をするヴァルに、胸が温かく気がして。カイは、身を起こすと麻布の上衣を脱いだ。日に焼けて薄く筋肉のついた男の体が露になる。 (我ながら色気がない) そう心の中で呟き、向き直る。 「ヴァル様。俺、まだ死にたくないんだ。こんな寒空の中、野宿なんてできないし。だからーー買ってくれませんか、オメガとして」 言ってみて、顔も首も耳も尋常じゃないくらい熱くなる。断られたらどうしようとか、でもこうするしかないだろとか、そんなどうしようもないことばかりが、頭を巡り。 ヴァルの沈黙に耐えられなくなりそうになった頃、冷えた上半身を抱き締められる。 「あ……っ」 「ならば、契約しよう。お前が俺の子を産めば、好きなだけ金と自由をやる」 「ん」 お金、自由、今の自分には魅力的過ぎる言葉だ。ヴァルの胸板に顔を埋めて夢心地に浸る。 (煙草、吸うのかな…?) 煙の奥に、冷たい鉄の匂い。それなのに、焦がした蜂蜜のような甘くて。頭がぼう、としてくる。 (変だな、俺こんな) 体の奥底から沸き上がる濃密な何か。 吸い寄せられるように、気付けばヴァルの首へ腕をかけ、鎖骨に鼻を擦り付けていた。 「おい?」 「?ん、あまくて。なんか、俺。あれ?ヴァル様、あ。」 背に這わされるヴァルの硬い掌に、ますます何かは、迫ってくる。心臓が鼓動を速め、泣いていないのに視界が滲んでいる気がした。 「あ。ぅ、ん」 「熱いな」 ヴァルは、体を傾けるとカイの胸飾りに舌を這わせた。 「ふ…ふ…っんッ」 漏れ出る声が恥ずかしくて、手の甲を押し当て誤魔化そうとするが、ヴァルによって捕らわれてしまう。 「ぁ…っ、ゃ」 「無粋だ」 そう告げられ、何度も舌で乳頭を嬲られる。 与えられる刺激に、熱を持った秘処が反応しないはずもなく。 「ゃっ」 煤けたズボンの前を押し上げる自分の陰茎に全身から汗が噴き出す。 「……っ」 その時、ヴァルが唾を飲み込むのがわかった。 「ヴァルさま?あっ、だめ、ゃーッ」 ヴァルは、硬い皮に覆われた指先をカイのスボンに滑り込ませると、そのままゆるゆると扱く。 「ぅ、あ、あぅ。ん、や、やぁ、やだぁ、やだぁっ」 湿った音を立て、高められる肉体に、動揺するカイは、目の前の男がそれを成しているというのにすがり付くしかない。 「っ、っ、っ~ッッッッ」 自分では、得たことない快感にカイは、あっという間に頂きへ達した。 ズボンを履いたままだったので、そこに染みが拡がるのがわかる。 (どうしよ、これしかないのに……) 現実逃避なのか、明後日のことを考えていると肩を圧され、ベッドに仰向けにされる。 滲んだ視界で、ヴァルを捉えると上衣を落としてズボンだけになっていた。 (やっぱり、すげぇ筋肉。アルファなのかな、だよな……いいなあ) 「何だ。やはり止めておくか?」 「違う。筋肉羨ましいなって」 「オメガなら、細くと望まないのか」 「んー…俺、ちょっと変わってるから、かな?」 「そうか。続けるぞ」 熱が醒める。 ヴァルは、カイの下肢からズボンを抜き取ると、既に、しとどに濡れた秘処へ指を這わす。 「柔らかいな」 「そ、そうか。俺、よくわかんなくて。んっ」 ヴァルの指は、触れ方こそ丁寧にカイの後孔を解していくが、やや性急で。カイは、初めてのことに上手く呼吸ができない。 はふ、と何とか意識を下から反らして、息をする。オメガといえど、使用したことがなければ容易に受け入れられるわけではない。 (早くヤりたいのかな。ま、そっか。恋人とかそんなんじゃないし) 目的があっての行為だ。ヴァルとしては、最大限、気をつけてくれているのだろう。 指が三本か、四本入るようになり。ヴァルがズボンのボタンを外すのがわかった。 「あ……」 出てきたのは、見たこともない太く猛った陰茎で、少なからずカイに欲情しているようだった。 (でも、待て。それは入らない、入らないぞ!) 指四本とかそういうあれじゃない。カイは処女なのだ。童貞なのだ。 「まっ、待って。ヴァル様、それはむりっ」 我に返ったカイは、焦りだす。ある種の性癖を持つ人ならば喜ぶかもしれないが、カイはまだそこまで自分を忘れられなかった。 「すまない。力は加減する」 「や、やめてくださ……っ」 「駄目だ。互いに交わした契約だ。大人しく孕んでもらうぞ、カイ」 「だめ、だめ、や、やぁーッッッ?!」 腰を掴まれ、持ち上げられるとすぐ。 ぬるついた秘処に、侵入する有り得ない程の存在感。入り口から、ならされたとはいえ狭い道をヴァルのそれが進んでくる。 「ん、ひ、ひぃ」 「狭い…っ」 「むり、ゃぁ、むりなのにぃ……っ」 困難な要求をするヴァルに、悲鳴を上げるカイ。しかし、ヴァルは、逃げ場を塞ぐように抽送する。 「ひゃ、やら、だめ。だめぇっ」 「っ、」 内は、前戯でほどけていた。 柔らかい肉壁を硬く太い欲が責める度、カイは、圧迫感と共に体が喜びをもつことに気が付く。 (オメガだから?) 頭の片隅で、冷たい理性がこちらを見ている。カイが今まで大切にしていたそれを、必要だからと捨ててしまったから、過去の自分に睨まれている気がした。 「どこを見ている」 「あうっ」 ヴァルが、内奥を突き、カイの意識がヴァルへ向く。視線が交われば、また前後に腰を揺らされる。濡れ混ざる体液が、潤滑剤となり、奥へ奥へヴァルの猛りを招き入れていく。 (怖い、やだ。おく、やだ) 「や、突かな。も、おく、やだ」 「目的を忘れるな。奥に出さないと孕まない」 首を振るも、ヴァルは、目を細めるだけだ。それどころか両手でカイの胸を弄ぶ。 「やら、やら、手え、離してくださ」 知らぬ悦びを、いくつも与えられては死んでしまう。カイは、胸を襲う両腕を避けようとするが、震える自分の手では何の役にも立たないと知る。 「いっちゃう、俺、いっちゃ、おかしくなる……ッ」 ヴァルも限界が近いのか腰の動きが速くなり、怒張が激しく奥を叩いてくる。 「い、ん゛、ゃ、、やめ…っっ」 「出すぞ」 「ーーーッッッ?!?!」 腹に満ちる火傷しそうな体液にカイは、身を震わせて意識を飛ばそうとする。 しかし、再び打ち付けられた腰に恐れと驚きで相手を見上げた。 「勝手に終わるな」 「??!?!?!?」 その宣言は、嘘偽りなく。 結局、カイが解放されたのは、朝日が窓から射し込む翌朝であった。

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