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第1話 春(4)
洗濯室での交わりが最高潮に達しそうになったその時、遠くで水の流れる音がして、緒田はハッと我に返った。牧瀬が用を終えたのだ。緒田は自らの熱い膨らみを収めようと前かがみになりながら、呼吸を整えながら、慌ててトイレのほうへと向かった。
ハンカチで手を拭きながら悪い待たせたなと近づいてきた牧瀬は、すぐに緒田の異変に気が付いたようだった。
「どうした?」
「いや、その・・・」
緒田が混乱状態の中でどう言い訳をすべきか迷っていたその時だった。数十メートル後ろ、先ほどまで緒田が盗み見をしていた部屋から、
パンパンパンパン・・・・
トットットットッ・・・・
それは肉と肉が激しくぶつかり合う音、椅子が床を引きずる音だった。
先ほどまでの行為を見ている緒田だけが、その音の意味を理解していた。牧瀬は訝しんだ。
「ん、何の音だ?」
「行っちゃだめ!!」
緒田は牧瀬の腕を強く掴んで、牧瀬が洗濯室へ向かおうとするのを引き留めた。
「痛えな、なんだよ」
笑いつつ、緒田の手を振り払おうとする牧瀬。
「ごめん、でも・・・」
緒田は、あの光景を絶対に牧瀬に見せてはいけないと直感していた。
なぜだか、もし牧瀬があの部屋の中の情事を目撃してしまえば、自分がこれまでずっと秘めてきた牧瀬への思いまで彼へ晒け出してしまうような、そんな気がしたのである。
緒田が牧瀬の腕をつかんだまま、膠着状態になったときだった。
「あんっ!!すごい!!いい!!!!気持ちいいよぉ!!!!!」
「騒ぐな!静かにしとけボケ!!」
メガネ男の矯声と金髪男の怒鳴り声が一瞬響き、音が止んだ。
その後しばらくして、トントントントン・・・と音が鳴り始めた。
ゾワワワワ・・・。
緒田が握っていた牧瀬の腕が、物凄い勢いで鳥肌立つのを、緒田は掌で感じた。それはまるで、緒田の牧瀬への隠された思いまでをも「拒絶」しているように感じられた。
(やっぱり・・・やっぱり僕の気持ちは、想太には受け入れてもらえないんだ・・・)
傷つく緒田の気持ちはつゆ知らず、牧瀬はすぐに、緒田の手をつかんで走りだした。突然の動きに緒田は驚く。
「えっ?何?」
「逃げるぞ!!」
緒田は訳も分からず、ただ必死に牧瀬の足についていく。
ーーー
しばらく走って、止まって、二人はぜえぜえと息を荒げながら休憩した。そして牧瀬は謝った。
「たくちゃん、ごめん。本当にごめん・・・こんなとこ、今すぐ出よう!!!」
「想太・・・?」
緒田は牧瀬の顔を見て、固まるしかなかった。恐怖におびえたような、怒りに満ちたような、ずっと一緒にいたはずの親友の、今まで見たことない表情だったからだ。
二人の近くに、シルバーのセダン車が停まった。運転席の窓が開く。ドライバーがサングラスを外してこちらを見ると、二人は思わずあっと声を出しそうになった。
突然現れたその男は、目が猫のようにパッチリと二重で、肌はほどよく焼けていて、柔らかい髪はゆるくパーマがあたっているようで、しかし無精髭が生えていて、大人の色気を醸し出していた。カッコつけていないのにカッコいい、男の憧れる男、といったような、モデルのような顔立ちだ。皺の感じから、年齢は30代後半から40代といったところだろうか。
「牧瀬想太と、緒田巧か?」
男は低くよく通る声で、二人の名を呼んだ。
二人が不審そうに頷くと、男は車を横付けした車を降りて自己紹介した。
「青雲寮管理人の梶です。初めまして」
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