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 冬馬はそのことでずっと心を痛めていたのだろう。 「俺がやった紅紐は、詩雨の俺への『想い』の(あかし)――それを置いていったということは、詩雨の心は俺から離れたんだろう……」  嬉しそうな、それでいて淋しげな表情だった。  冬馬は一枚の絵葉書を送っていた。差出人も言葉もなく、この街の風景だけを盛り込んだエアメールだ。自分たちは生きているということを伝えるために。  それが詩雨の復帰を手助けしたとは、冬馬は少しも考えていなかった。おそらく彼を更に追いつめたのでないかとさえ思っていた。 「詩雨を立ち直らせたのは、別の誰かだ。おそらくその『誰か』とここにやってきて、あれを置いていったのだろう」  冬馬はその『誰か』に心当たりがあるようだった。  時折見ているファッション雑誌。それから『SHIU』の写真集。『SHIU』とは柑奈詩雨のカメラマンとしてのネームだった。  ファッション雑誌は仕事柄見ていてもおかしくはない。『SHIU』の写真集は、僕に気を遣ってか、作業台の机の引き出しにしまっていて、いつもこっそりと見ていた。僕はそれを知っているけれど、知らないふりをしていた。  冬馬は詩雨ではなく僕を選んでくれた。  彼は僕を愛してくれている。  それはわかっている。  でも。  愛だの恋だのではない、強い絆が二人にはあるのだと思う。  僕はそれに今でも嫉妬している。 * *  あれから更に五年の月日が流れ、一週間ほど前のこと。  仕事関係のメールアドレスに一通のメールが届いた。 『パリで仕事があるから、ついでに会いに行くよ』  最後に『詩雨』という名で締めくくられていた。もう何年も会っていない相手に送るにしては実に簡単すぎるメールだ。 『会いに行く』日すら書かれていない。  詩雨らしいといえば、詩雨らしいのかもしれない。  そして、その日が今日だったのだ。  ミシンに向かい作業をしていた冬馬がぴたっと手を止め、立ち上がった。  それは聞こえない声を聞いたような、何かの啓示を受けたような、そんな様子だった。 「どうしたの?」  窓に向かって歩いていく彼を訝しんで声をかける。 「今何か……」 「え……?」  彼はじっと窓を覗き込んだ。  はっと息を飲むのがわかった。  やがて彼は吐息のような声を漏らした。 「……詩雨……」  と。  その声は愛おしい大事な何かに再び出会えたような、感嘆の色が滲んでいるように思えて、僕の胸はきゅっと痛んだ。  僕も恐る恐る窓に顔を向ける。  確かに――詩雨はいた。  日本から遠く離れたこの土地まで彼は冬馬を追ってきたのだ、そんなふうに恐怖した。  しかし、彼の隣には一人の男性が寄り添うように立っていた。  

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