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二人はあの紅紐が結んであった場所を指さして何か話しているようだった。
結んで『あった』場所。
そうなのだ。
もうそこには何もない。長い間の照りつける日差し、風雨に晒され、自然に擦れ切れていき、とうとう昨年 の嵐の晩にどこかへ飛んでいってしまった。
翌朝それを冬馬が見つけ、酷く寂しそうにしていた。
「彼奴の心が完全に俺から離れたみたいだ」
そうぽつりと言っていたのだ。
もともと詩雨のことになると口が重くなるほうだが、それきり何も言わなくなってしまった。それは余計に彼の心の中に詩雨が住んでいるのだと思わせた。
冬馬は呆然とした様子で扉に近づいた。
取っ手に手をかけて少し躊躇いを見せたが、思い切ったように扉を開けた。
僕もその後を追っていく。
「冬馬、久しぶりだな」
眩しい笑顔で詩雨は言った。
冬馬がいなくなったことで引き篭もりになったことなど微塵も感じさせないような笑顔だ。
冬馬の横に並びちらっと様子を窺う。何度か小さく口を開いては閉じを繰り返してから、ふっと笑った。
「久しぶりっていうか、八年も会ってないだろ」
そう軽口を叩く。
気持ちが落ち着いたのか、動揺を押し隠したのか。
「だなー」
あはははと詩雨が声を上げて笑った。
「まったく、来るなら来ると連絡しろ」
「連絡したじゃん」
「日にち入れてなかったろ、もし、今日いなかったらどうするんだ」
急に時が遡ったように思えた。
僕が彼らに加わった――いや、詩雨からすれば割り込んできただろうか――中等部時代に。こんなふうに話す二人に疎外感を感じていた。
胸がちりっと痛む。
しかし、それは僕だけではなかったようだ。モデルの『ハル』も顔を顰めていた。さっきは詩雨の隣に寄り添うように立っていたが、いつの間にか半歩分下がっていた。
(この人も僕と同じか……)
そう思うと逆に余裕が出てくる。
(イケメンはどんな顔をしてもイケメンだ)
などと思うほどには。
「そうだなー、いなかったらまた別の日に来るかな。会えるまで来るよ」
「メールしろ!」
「まぁいいじゃん、今日会えたんだから」
「そうだけどっ。そういえば、メールよくわかったな」
「優馬に聞いたよ」
ぽんぽんぽんと会話がゆき交う。僕ら二人は黙って見ているだけだ。
「なんで、仕事用のメールアドレス。携番聞けば良かったろ」
「う……ん、なんでかな。なんとなく?」
急にトーンが下がったように思えた。
やはり詩雨には冬馬に対する何かしらの想いがあるのだろうか。気軽に電話できない辛さのようなものが。
それとも単純に八年の空白がそうさせているだけなのだろうか。
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