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「……五年前もここに来たな……」
感慨深げに柵を撫でる。
彼が撫でた場所は五年前に彼自身が紅紐を結んでいった場所だった。
今は何もない。
「――気づいたよ、たぶんお前が去ったすぐあとに」
「そっかー」
「なんで会わずに行ったんだ」
淡々とした口調だが一瞬だけ眉間に皺を寄せたように見えた。
あの時僕は「捜してみる?」と聞いたが冬馬は「いや、いい」と答えて、家の中に入るように促した。たぶん本当は会いたかったのだろう。
(でも詩雨くんに会う気がなかったのがわかったから……)
あの時の答え合わせが今なされる。
「……あの時は、まだおまえが気にしていると思ったから、おまえがオレを選ばなかったこと、置いていったこと、オレに後を押しつけていったこと」
「…………」
詩雨は微笑んでいた。しかし、冬馬は今度は隠すことなく苦しげな表情をしている。
「……すま」
『すまない』と謝ろうとしたのだろう。しかし、詩雨はそれを制した。
「おっと、謝らないでくれよ。そういうつもりじゃないんだ。確かにあの後オレは体調を崩して、仕事もできなくなった。でもあれはオレの弱さだ。おまえと一緒にいたくて長年自分自身を装ってきたし、心も偽ってきた。弱い自分のままだったらおまえはオレをずっと守ってくれていたのか、自分の気持ちを打ち明けていたらおまえはオレを選んでくれていたのか。そうだとしても、結果は変わらないかもしれない。だから、謝ったりしないでくれ」
冬馬はその言葉に黙ったまま頷いた。
「あの日、最初から会うつもりはなかったんだ。ただ二人が確かに生きているということを確かめたかっただけ。生きて……幸せなところを見たかっただけ。そして、オレはあの時それを確かめられて、自分の気持ちにもけじめをつけた。紅紐を置いていったのは、その証 だ」
彼は語り終えると、隣の男性『ハル』の腕にするりと自分の腕を絡めた。半歩分後ろに下がっていた彼を自分の横に並ばせる。
「ハル、覚えているだろ?」
「ああ、もちろん」
「オレ今コイツと暮らしてるんだ」
愛おしそうにハルの顔を見上げる。
冬馬は何も口を挟まない。
「恋人……っていうか、ダンナ? パートナーシップも結んだ」
今の日本にはそういう制度もあるのだと知っていた。フランスも同性婚が認められており、僕らも婚姻関係にある。
(でも……まさか、詩雨くんにそこまでの相手が……)
僕は驚いて改めてハルの顔をまじっと見て、そして詩雨の顔を見た。
表情の変わらないハルに対して、詩雨はこの上なく幸せそうな顔をしている。
(嘘……じゃないんだ……)
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