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第10話 本物

「今度の映画は本物の極道が出て来るような話だ。今の日本の極道の実態を勉強してくる。 正樹は帰れ。」  そう言って多額の小遣いをくれた。中華街を観光して帰れと言うのだ。  役者はここまで役に入り込むのか? 危険じゃないのか。 「正樹くん、帰るの? 一緒にご飯食べよう。美味しい中華料理。 せっかく来たんだから。」  マネージャーが声をかけてくれた。 「鷹尾さんに付いてなくていいんですか? 一人で大丈夫なんですか?」  俺は鷹尾さんがどんな人なのかよく知らないことに気がついた。  鷹尾さんは立ち居振る舞い全てがヤクザになっていた。映画の中の萩原鷹尾は、本物の極道だった。映画なのだ。  24時間休みなくヤクザでいる。気持ちがもう役に入り込んでいる。  乱暴に抱きしめられた。今はマンションに鷹尾さんと二人きり。いつも女を切らした事のない鷹尾さんだが今夜は正樹しかいなかった。 「鷹尾さん,どうしたんですか?」 鷹尾は抱きしめて離さない。抱かれたままソファに倒れ込んだ。  正樹は驚いたが嫌ではなかった。こんな事があるのを期待していなかったとは思わない。 (いつか、鷹尾さんに抱かれたいと思っていた。 今、はっきりと自覚した。)  抱かれてくちづけられた。 「いやか?いやだったらやめるよ。」  俺は首をよこにふった。  「俺は女はダメなんだよ。 役のためにとっかえひっかえしてるけど、今ひとつ気持ち良くなれない。悪いな。  おまえに手を出すつもりはなかったんだが。」 「鷹尾さん、俺、童貞なんです。 男も女も経験ないんです。」  初めてだった。何もかも初めてだった。 鷹尾さんは男を抱くのにすごく慣れていた。 「俺は今、迷ってるよ。正樹を汚してはいけないとわかっているのだが。」 「途中でやめないで。」 「いいのか?怖くないか?」  映画の中で激しい戦いがある。気持ちの持って行き場がない。つい乱暴になってしまう。  女相手では飽き足りなくなっている。

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