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第21話 クランクアップ
俺は鷹尾さんが理解出来ない。そんなに女が欲しいとも思えない。それでも手が早いのは何故だろう。
その凛とした佇まい。鋭い動きのアクションシーン。その切れ長な目の力。
でもいつもそばに女の人を置く。その女性たちがみんな本気になってしまう。見ていて気が気じゃない。
(俺のヤキモチじゃないよ。)
ーー「ここがおまえの帰る場所だ。
死ぬなよ。」
クルッと背を向けて歩き出す。
「ここにいるのは、
みんなおまえの家族だ。」
鴎の声がする。海鳴りが聞こえる。
完 ーー
この映画「令和 最後の残俠伝」は無事にクランクアップを迎えた。
フェイクタトゥーを落とす所を見ていた。名残惜しい。
千尋さんが何かクレンジングジェルを塗り込めて絵の具を浮かせて取り除く。
「もったいないですね。綺麗に描かれているのに。」
タトゥーと共に鷹尾さんの役も抜けたみたいだ。いつもの鷹尾さんに戻った。
あのキリキリとした殺気のようなものは無くなった。それにあの色気も。
(役者ってすごい。)
家に帰って来た。マネージャーが一緒だ。
「お疲れ!
明日から三日間お休みよ。
新しいドラマの台本、持って来たから。
ざっと見ておいて。」
早速、次のドラマの話だった。以前、聞いていたストイックな男の話。
今度も激しいアクションはあるのだろうか。
鷹尾さんが俺に台本を投げてよこした。
受け取って目を通す。パラパラっと読んで目が離せなくなった。面白い話だ。おもしろい、というか、すごくストイックな男の話。
「あんまり、セリフはないらしい。
目で語れ、って原作の作家に言われた。」
なんか芸術家の役のようだった。また入り込んでしまうのか。
「ドライブしよう。」
次の日、鷹尾さんの運転で出かけた。
海が見たい、と俺の実家の近く九十九里の海に行った。
「海はいいなあ。この海を見て育ったのか、正樹は。」
俺はあまり感動しない。ここは海が見えないから。なだらかな平地で、ドライブしても海は見えない。有料道路からの景色もあまり美しくはない。
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