22 / 31

第22話 贅沢

「正樹は贅沢だな。俺は海に憧れる。 東京の海は綺麗じゃないから。」  東京育ちの鷹尾さんは、どこまでも続く海岸線がカッコいいと言う。  車から降りて歩いた。道路から見えない海は綺麗だった。 「子供の頃、海鳴りが聞こえるのは好きでした。 海の音がするのに海が見えない。」  ザザーン、と遠くに聞こえる海鳴りは想像力をかき立てる。  ビーチラインと称する幹線道路からは海が見えない。もっと一ノ宮の方に行けば見えるかもしれない。地形の問題だと思う。高低差があれば景色がいいはずだ。そうまでして見たい海でもない。  勝浦方面に来た。 「担々麺食べますか?有名らしいけど。 勝浦より美味い担々麺の店が大網にありますよ。」  そこに戻って案内したが、もう店は無くなっていた。 「残念だな。極楽ラーメンでもいいぞ。」  鷹尾さんは初めて会った時の事を覚えていた。 あれからまだ一年も経っていないのに昔の事のように感じた。  Tアリーナを越えて行くとまだ極楽ラーメンはあった。二人で辛いラーメンを食べた。 「豚骨醤油の激辛。美味いな。」  辛さのせいかジワーッと心が熱くなった。 撮影のある時は気が立っているのか、激しいセックスを求めてくる鷹尾さんだが、今はそう言う雰囲気ではない。 「おまえ、あの台本読んでただろ。 どう思った?」 「ええ、何だかロマンチックなドラマですね。」 「静かな男の話だ。 俺の中にいるかな、そんな奴。」  鷹尾さんはお芝居をそんな風に引き出すんだ。 自分の内面を探して。  それはつらい事だと思った。自分の中になかったら新たに作り出すのか?  さまざまな人間を必要に応じて構築して行く。 役者って大変な仕事だ。  新作にはほとんどセリフがない。 間、のドラマだった。 「無駄なおしゃべりは俺も嫌いだが 言葉で語れないと難しいな。」  俺を見つめる。俺が練習台か? 「大切なものが壊れたら、正樹ならどうする?」 「え、と、泣きます。泣き喚く。 それと壊した自分に怒りますね。」 ジッと見つめられた。 「正樹は俺が壊れたら、泣くのか?」 「え?壊れるって、どんな風に?」  それは粉々になって二度と戻らないって事なのか?  俺は鷹尾さんの言いたい事がわからなかった。

ともだちにシェアしよう!