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第23話 空の奥

 鷹尾さんは役作りに入った。今度の役は自分の内面を曝け出す、きつい役柄だった。  新ドラマは絵描きの役だ。 「正樹、こいつはどんな男だと思う?」 「孤独が好きな感じですかね。」  ドラマの主人公は思いをいつも自分の中に抱え込んで表情に出さない。そんな男だった。 新ドラマ「ダダ」 ーーずっと絵を描いて来た。 昔から硬派の集まり、野獣会の会員に誘われて不本意ながら参加した。一人で描くのに行き詰まったりするから。 「しかし、徒党を組んで何かやるのは性に合わない。」 「よくこの会に参加したな,って評判だよ。」  高校時代美術部で一緒だった秋山譲(じょう)に言われる。譲とは長い付き合いになった。  シュールレアリスムに傾倒して理屈っぽい絵を描いている浅井莉央(りお)。主役だ。  莉央はいつも一人でいる。 「不器用ね,浅井くん。」  同じ美術部の佐々木芽瑠(める)が馴れ馴れしい。そんな高校時代を一緒に過ごして卒業。  譲と芽瑠は美大に進学した。 浅井莉央はどこにも進学しないでアルバイトに明け暮れた。莉央は父親がいない。 「莉央は、絵、描き続けなよ。絶対やめないで。」  莉央は母親と二人で祖母の残した古い家で暮らしていた。その家で引きこもって絵を描き続けている。生活のため、倉庫でのピッキングの仕事に自転車で通っていた。アルバイトの稼ぎは画材に消えた。貧しい暮らしだった。ーー  無口な莉央は思いの丈をカンバスにぶつけた。 「こんにちは、久しぶり。描いてる?」  秋山譲と佐々木芽瑠が訪ねて来た。狭く汚い莉央の部屋。 「相変わらずシュールレアリスムにこだわってるんだね。」 「すごい!これ絶対ウチの大学の企画展に出しなよ。」  芽瑠が描きかけのカンバスを見て言った。 少ない給料でやっと買った100号のカンバス。 いつもはストリッパー(剥離剤)で剥がして何度も使い回すのだ。 「空の奥?タイトル?」 「くうのおく、だよ。」 「いいねえ、ぜひうちの大学主催の企画展に応募しなよ。」 「学生じゃねえよ。」 「いいの、そんなの関係ないよ。」  真っ白に見える絵の具の層に「想像のナチュラリスト」と呼んだポール・デルヴォーの非現実主義が見え隠れする。白の中にうっすらと船が見えるから海?

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