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第25話 無口な男 2

 ーー入賞したからと言って莉央の暮らしが劇的に変化するわけではない。  アルバイトから帰って来ると母の用意してくれた簡単な食事を済ませ、部屋にこもる。  絵を描いていない時は本を読んでいる。自分の惹かれるシュールレアリスム。その理論を自分なりに学ぶ。  流派や形式上の問題ではない。シュールレアリスムとは精神の方向の問題である、と書かれた本を読む。  野獣会の会員だが、フォービズムに囚われたくはない。野獣会もそれにこだわる会ではない。その緩やかさに莉央は共感している。  描きたい。その思いのままに絵筆を取る。 だが、なぜかいつも塗りつぶした後でナイフで削ると出て来るような画面が好きだった。  超現実なのか曖昧の追求なのか。自分が求めているのは、何だ?  誰ともしゃべらない日が続く事も多い。職場では、ほとんどしゃべる必要がない。  デジタル処理でカードをかざすだけだ。入室も退室もカードで事足りる。出入り口も無人のことが多い。  ピッキングは、タブレットに示された商品番号を見て品物をカゴに入れる。ピッピッ、と言う音だけがバーコードに反応してくれる。  そして登録証に時刻を印字して帰宅。 母はスーパーで惣菜を作っていて、夕食はその売れ残りが多い。揚げ物は苦手だ。  母との関係は多分悪くはないのだろう。コミュニケーションが足りないかもしれない。  莉央はしゃべるのが好きではない。 「恋愛とかに興味ないの?」  たまに来訪する譲と芽瑠が話しかけて来るのが 人としゃべる数少ない機会だった。 「沼田教授が莉央と話がしたいって言ってるよ。 どうする?」  こんな事はイレギュラーだった。 「アトリエに来いって。行ってみる?」 (俺は多分この時、気分転換がしたかったんだ。)  大学の中にアトリエはあるのかと思っていたら違った。  大学に近い,武蔵野の森の中にアトリエはあった。薄暗い北向きのアトリエ。光線が一定するように北向きに建てられている。 「よく来てくれたね。どうぞ中に入って。」  描きかけのカンバスがあった。200号くらいか。莉央が買えない画材が、たらふく置いてある。本当にたらふくって感じだ。 「贅沢だなぁ。」  環境が芸術に及ぼす影響は大きいだろう、と思った。  一人で来た。と言うか譲の車で来てここで降ろされた。譲は帰ってしまった。  莉央は何を話していいのかわからない。 一番苦手なシチュエーションだった。

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