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第34話
それから
忙しいスケジュールが落ち着いたあとは、
だいたい榊原に呼ばれるようになった。
ある日。
仕事終わり。
スマホが鳴る。
画面に表示された名前を見て、少しだけ止まる。
(……)
嫌な予感はあった。
それでも出る。
「もしもし」
少し間があってから、母の声がする。
「……あのね」
いつもより少し小さい声。
「今月さ」
「追加で払わなきゃいけなくなって」
湊は何も言えなかった。
母は続ける。
「ごめんね」
「ほんとに、ごめん」
少し間。
「もうやめようとは思ってるんだけど」
「でも、なんか……」
言葉が途切れる。
「気づいたら行っちゃってて」
湊は黙ったまま聞く。
「迷惑かけてるのは分かってる」
「でも……」
それ以上は続かなかった。
頭の中で数字だけが浮かぶ。
支払い期限。
残りの日数。
足りない金額。
「……」
湊は短く息を吐く。
「ちょっと、考えさせてください」
それだけ言って、通話を切った。
しばらく動かなかった。
何をどうするか、整理しようとする。
でも、うまくまとまらない。
スマホが震える。
画面を見る。
榊原
メッセージ。
「夜ご飯、一緒に食べない?」
少し画面を見る。
(……)
考える。
支払い。
残りの日数。
やること。
それでも、指は動く。
「行きます」
送信する。
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