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第35話

榊原の家に招かれた湊は、 部屋に入り、小さく「お邪魔します」と言った。 テーブルには、いつもより少しだけ豪華な料理が並んでいる。 「なんか奮発しちゃってさ」 榊原は笑う。 「食べきれないと思って呼んじゃった」 その軽い笑みに、少しだけ気が緩む。 向かい合わせに座る。 箸を取る。 口に運ぶ。 でも。 味が分からなかった。 さっきの電話のことが、頭から離れない。 「湊」 顔を上げる。 榊原がこちらを見ている。 「なんかあった?」 湊は少し黙る。 それから、ぽつぽつと話し始める。 さっきのこと。 追加の支払い。 期限。 足りない金額。 話し終わると、少し間があった。 榊原は「ふーん」とだけ言う。 それから、少しだけ口元を上げる。 「そっか」 何か考えている顔。 「じゃあさ」 湊 「?」 榊原は箸を置く。 少しだけ軽い調子で言う。 「今日、泊まってくれたら」 少し間。 「その追加分、出してあげてもいいけど」 視線を外さずに続ける。 「どうする?」

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