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第36話
湊は考えた。
どうすればいいのか。
どう返せばいいのか。
頭の中で数字が回る。
支払い期限。
足りない金額。
母の声。
考えれば考えるほど、息がうまく吸えなくなる。
「湊?」
声が聞こえる。
顔を上げる。
いつの間にか榊原が隣に来ていた。
「ごめん」
榊原が言う。
「難しく考えさせちゃったね」
その声は思ったより優しかった。
「大丈夫だよ」
「今のなし」
湊は何も言えない。
「別に返さなくていいし」
「またどっか付き合ってくれたらそれでいい」
少し笑う。
「おにぎり屋でもいいし」
「でも……」
思わず声が漏れる。
榊原は首を振った。
「大丈夫」
「余裕出てきたらさ」
少し考えて、
「その時ご飯奢って」
「それでチャラ」
あまりにも軽く言うから。
あまりにも当たり前みたいに言うから。
気づいたら涙が落ちていた。
「……あ」
湊自身が一番驚く。
泣く理由なんて分からない。
ただ勝手に出てきた。
榊原は何も言わなかった。
ただ静かに肩を引き寄せる。
逃げられるくらいの力で。
「大丈夫」
背中をゆっくり撫でる。
「大丈夫だから」
湊は俯いたまま泣いていた。
理由は分からない。
でも。
ずっと張っていた何かが、
少しだけ緩んだ気がした
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