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第49話

それから数日。 風邪はすっかり良くなった。 久しぶりの仕事場。 見慣れた景色。 聞き慣れた声。 「湊ちゃーん!」 姿を見つけたスタッフが駆け寄ってくる。 「寂しかったよー!」 半分泣きながら抱きつかれそうになる。 「……すみません」 「謝らなくていいの!」 「ちゃんと治った?」 「はい」 そんなやり取りをしながら仕事へ戻る。 正直。 そんなに休んでいた感覚はなかった。 でも周りからすると違ったらしい。 「湊ちゃんいないと大変だったんだからね」 「そうなんですか」 「そうなの!」 よく分からないまま頷く。 気づけばいつも通り仕事が始まっていた。 資料を運ぶ。 確認する。 連絡を回す。 やることは山ほどある。 でも。 嫌じゃなかった。 むしろ。 少し楽しい。 自分でも珍しいと思う。 仕事は好きだ。 やれば結果が出る。 分かりやすい。 だから嫌いじゃない。 そんなことを考えながら歩いていると、 聞き慣れた名前が耳に入った。 「榊原さんの次の作品さ」 「今回すごいらしいよ」 「あのシーン撮り直したらしい」 スタッフ同士の会話。 最近会っていない。 風邪が治ってからも、 タイミングが合わなかった。 それなのに。 話題になる度、 自然と耳がそちらへ向いてしまう。 (……忙しいんだろうな) そう思う。 ただそれだけ。 それだけなのに。 少しだけ。 会えたらいいなと思った。 理由は分からない。 きっと。 体調を崩した時に世話になったからだ。 たぶん。 そういうことにしておいた。

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