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第50話

それから数日。 また忙しい日々が続いていた。 榊原と会う機会もない。 まぁ、売れっ子だし。 そんな風に自分を納得させていたある日だった。 仕事の合間。 スマホが鳴る。 母からだった。 そういえば。 少し前に言われていた。 「今度この番号から電話来たら出てほしいの」 理由は聞かなかった。 だから何となく出る。 「もしもし」 『あ、初めまして』 知らない男の声だった。 『弁護士の○○と申します』 弁護士。 なんで。 嫌な予感がした。 頭の奥が少し冷える。 『支払いの件についてなのですが』 もう嫌だ。 聞きたくない。 何も聞きたくない。 『先日お支払いいただいていた件ですが』 やっぱり。 『相手方との示談が成立しまして』 示談? 『息子さんがお支払いいただく必要がなくなりました』 「……え?」 思わず声が漏れる。 『既にお支払いいただいていた分につきましては』 『後日返還されることになっております』 何を言われているのか分からない。 返還。 戻る。 お金が。 戻る? 『何かご不明な点はございますか?』 「……」 分からない。 何も。 「いえ」 それだけ答える。 『それでは失礼いたします』 通話が切れた。 しばらくスマホを見つめる。 理解が追いつかない。 返さなくていい。 戻ってくる。 終わった。 終わった? 今まで当たり前のようにあったものが、 急になくなった。 それなのに。 嬉しいより先に。 「……榊原さん」 ぽつりと名前が零れた。 こういう時、 何故か真っ先に報告したいと思った。 理由は分からない。 でも。 きっと。 あの人なら。 一緒に喜んでくれる気がした。

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