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第51話

それから数日。 また忙しい日々が続いていた。 榊原と会う機会はなかった。 仕事場で見かけることもない。 まぁ。 売れっ子だから。 そう自分を納得させる。 気づけば一週間近く経っていた。 ある日。 休憩中。 スタッフ同士の会話が耳に入る。 「榊原さん地方行ってるらしいよ」 「え、いつから?」 「結構前じゃない?」 「しばらく帰ってこないらしい」 湊は思わず顔を上げた。 でも。 それはもう行った後の話だった。 「……そうなんですか」 それだけ返す。 胸の奥が少しだけ重くなった気がした。 理由は分からない。 忙しいなら仕方ない。 それだけだ。 その日の夜。 家へ帰る。 電気を付ける。 静かな部屋。 いつもと変わらない。 テーブルの引き出しを開けた時だった。 封筒が目に入る。 榊原から借りたお金。 返そうと思っていた。 タイミングがなくて、 そのままになっている。 封筒を手に取る。 膝を抱えて座る。 静かだった。 時計の音だけが聞こえる。 (いつ帰ってくるんだろう) ふと思う。 スマホはすぐそばにあった。 連絡先も知っている。 聞こうと思えば聞ける。 でも。 そんな考えは浮かばなかった。 ただ。 封筒を抱えたまま座っている。 静かな部屋。 静かな夜。 それなのに。 今日は少しだけ静かすぎる気がした。 湊は窓の外を見る。 曇った夜空だった。 そのまましばらく動かなかった。

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