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第52話

次の日。 返ってきたお金で少し高そうなおにぎりを買った。 いつもなら買わない。 でも今日はなんとなく手が伸びた。 休憩室。 包装を開ける。 一口食べる。 「……」 味がしない。 いや。 味はする。 でも美味しくない。 お腹も空いていない。 どうしてだろう。 もう返済しなくていい。 お金も戻ってきた。 良かったはずなのに。 その時だった。 「湊ちゃん」 スタッフがスマホを持って近付いてくる。 「見て見て」 画面を向けられる。 そこには地方で撮られた榊原の写真が映っていた。 スタッフに囲まれながら笑っている榊原。 忙しそうだった。 楽しそうだった。 元気そうだった。 それを見た瞬間。 胸の奥がぎゅっと苦しくなった。 (あ) 会いたい。 そう思った。 でも。 会えない。 忙しいから。 仕事だから。 仕方ないから。 そう考えた瞬間だった。 ぽたっ 雫が落ちる。 「え」 自分の手に落ちた水滴を見る。 何で。 もう一度落ちる。 「湊ちゃん!?」 慌てた声が聞こえる。 でも反応できない。 会いたい。 なんで? 仕事で会ってただけなのに。 借金がなくなったことを伝えたいだけなのに。 なんでこんなに苦しいんだろう。 分からない。 分からないまま、 涙だけが止まらなかった。 結局その日は早退になった。 家に帰っても、 理由は分からないままだった。 ただ。 テーブルの上に置かれた封筒を見る。 返そうと思っていたお金。 まだ返せていない。 「……榊原さん」 静かな部屋で名前を呼ぶ。 返事はない。 それが少しだけ寂しいと思った。

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