53 / 113
第53話
突然のことだった。
スタッフ達は思った以上に心配してくれた。
「今日はもう帰ろう」
「明日も休みな」
気づけばそう決まっていた。
帰宅する。
静かな部屋。
いつも通りのはずだった。
なのに。
何をしていても考えてしまう。
榊原のことを。
地方へ行ったこと。
写真の中で笑っていたこと。
借金の話を伝えられていないこと。
声を聞いていないこと。
考える。
胸が苦しくなる。
気づけば泣いている。
泣き止む。
また考える。
また泣く。
その繰り返しだった。
いつの間にか眠っていたらしい。
着信音で目を覚ます。
ぼんやりしたままスマホを見る。
画面には榊原の名前。
胸が大きく跳ねた。
慌てて電話に出る。
「もしもし」
『湊?』
その声を聞いた瞬間だった。
また泣きそうになる。
喉が詰まる。
何も言えない。
『おい』
榊原が少し笑う。
『こっち帰ってきたらさ』
『仕事休ませてるって聞いたから電話したんだけど』
少し間。
『無理そうだな』
優しい声だった。
そのせいで余計に駄目だった。
言いたいことはいっぱいある。
借金のこと。
お金が戻ってきたこと。
会えなかったこと。
でも。
涙ばかり出てきて声にならない。
『湊』
名前を呼ばれる。
『大丈夫』
その言葉だけで泣きそうになる。
『今日はもう帰るから』
少し間。
『途中そっち寄っていい?』
湊は唇を噛む。
声が出ない。
それでも。
「……はい」
やっとそれだけ言えた。
『了解』
『じゃあ待ってろ』
電話が切れる。
静かな部屋。
でも。
さっきまでと違った。
あと少ししたら榊原が来る。
そう思っただけで、
胸の苦しさが少しだけ軽くなった気がした。
ともだちにシェアしよう!

