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第56話
「さてと」
榊原が立ち上がる。
「湊の顔も見れたし」
「そろそろ帰ろうかな」
その言葉を聞いた瞬間だった。
胸がぎゅっと痛くなる。
また泣きそうになる。
榊原はそんな湊を見ながら、
わざとらしくため息を吐いた。
「あーあ」
「地方から帰ってきたばっかなのに」
「部屋ぐちゃぐちゃなんだよな」
「掃除してくれる人いないかなー」
ちらりとこちらを見る。
「……います」
思わず答えてしまう。
榊原は吹き出した。
「いた」
「助かるなぁ」
そう言って笑う。
少しだけ胸が軽くなる。
「じゃあ行こうか」
「はい」
反射的に返事をする。
そして数秒後。
「……はい?」
榊原が笑った。
「掃除」
「してくれるんだろ?」
「いや、それは」
「うん」
「後日かと思ってました」
「俺は今だと思ってた」
あまりにも自然に言われる。
「でも荷物」
「着替えくらいなら途中で買える」
「……」
「それとも一人でいる?」
その言葉に湊は黙る。
一人。
静かな部屋。
また榊原のことを考える夜。
胸が痛くなる。
嫌だった。
理由は分からないけど。
嫌だった。
「……行きます」
「よし」
榊原は満足そうに頷く。
「じゃあ決まり」
そのまま車の鍵を回す。
まるで最初から連れて帰るつもりだったみたいに。
湊は気付いていなかった。
榊原も、
最初からそのつもりだったことに。
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