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第57話

何事もなかったかのように振り返る。 「おかえりなさい」 「ただいま」 榊原は買い物袋をキッチンへ置く。 湊はそのまま視線を逸らした。 拾い集めた洗濯物を抱える。 何もなかった。 何もしてない。 たぶん。 そういうことにする。 洗濯機へ向かう。 服を全部放り込む。 洗剤を入れる。 柔軟剤を入れる。 スタートボタンを押す。 ごうっと音が鳴る。 水が溜まる。 そして。 洗濯物がゆっくり回り始めた。 湊はしゃがみ込む。 ぐるぐる。 ぐるぐる。 服が回っている。 なんとなく見ていた。 特に理由はない。 たぶん。 「何してんの」 頭上から声が降ってくる。 顔を上げる。 榊原が笑っていた。 「……洗濯です」 「それは見れば分かる」 榊原は吹き出す。 「なんで見てるの」 「……」 考える。 自分でも分からない。 「回ってるので」 「うん」 「見てました」 「小学生か」 榊原は声を出して笑った。 湊は再び洗濯機を見る。 ぐるぐる。 ぐるぐる。 「面白い?」 「少し」 「マジか」 また笑われる。 その笑い声を聞きながら、 湊は洗濯機の中を見つめる。 本当は違った。 洗濯物を見ていたわけじゃない。 榊原の服が回っているのを見ていた。 でも。 そんなこと説明できるわけもなく。 「湊」 「はい」 「熱ない?」 額に手が当てられる。 「……ありません」 「じゃあよかった」 そう言って頭をぽんと撫でられる。 それだけで。 胸の奥が少しだけ温かくなった。 理由はまだ分からなかった。

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