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第58話

それからしばらく。 仕事はいつも通り続けていた。 榊原の家にも行った。 掃除もした。 一泊もした。 楽しかったと思う。 たぶん。 仕事も忙しかった。 スタッフ達は相変わらず騒がしい。 ある日。 「榊原さんの作品またヒットしたらしいよ」 そんな話が聞こえてきた。 「すごいよね」 「売れっ子だもん」 そうか。 売れっ子だった。 改めて思う。 そして。 その瞬間。 自分との距離も思い出した。 帰宅する。 静かな部屋。 ぼんやり天井を見る。 返済は終わった。 借金もない。 働かなきゃいけない理由もない。 なのに。 次の日も仕事へ行く。 その次の日も。 そのまた次の日も。 気づけば。 何のために働いているのか分からなくなっていた。 仕事は好きだ。 でも。 自分が何をしたいのか分からない。 そんな日々が続いたある日。 湊は退職届を書いた。 引き止められた。 「なんで?」 「嫌なことあった?」 たくさん聞かれた。 でも。 「最近疲れてて」 そう答えるしかなかった。 本当の理由は、 自分でも分からなかったから。 静かに職場を去る。

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