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第59話
最近、職場で湊を見かけなくなった。
忙しいからだと思っていた。
俺も仕事が立て込んでいたし、
タイミングが合わないだけだと。
そう思っていた。
ある日の休憩中。
スタッフ達の会話が耳に入る。
「湊ちゃん辞めてからほんと忙しいよね」
「分かる」
「働き者だったからなぁ」
「めちゃくちゃ助かってたのに」
「最近体調悪そうだったし」
「仕方ないよね」
その言葉に、
思わず足が止まった。
辞めた?
誰が?
頭では分かっている。
でも理解が追いつかない。
「……今なんて?」
スタッフ達が振り返る。
「え?」
「榊原さん聞いてないんですか?」
嫌な予感がした。
「聞いてないって何を」
「湊ちゃん」
「少し前に辞めましたよ」
世界の音が遠くなる。
辞めた。
湊が。
なんで?
何も聞いてない。
相談も。
連絡も。
何も。
「いつ」
「二週間くらい前?」
「引き止めたんですけどね」
「疲れたって」
「でもなんか違う感じだったんですよね」
その先は聞こえなかった。
気づけばスマホを取り出していた。
発信。
呼び出し音。
一回。
二回。
三回。
そして。
『おかけになった電話番号は現在――』
切る。
もう一度かける。
繋がらない。
またかける。
繋がらない。
『電波の届かない場所にいるか――』
切る。
「なんで」
小さく呟く。
なんで言わなかった。
なんで相談しなかった。
なんで。
胸の奥がざわつく。
今まで感じたことのない焦りだった。
湊は、
連絡をくれるタイプじゃない。
それは知ってる。
でも。
何も言わずにいなくなる奴でもなかった。
「湊」
無意識に名前を呼ぶ。
返事はない。
スマホの画面には、
最後に交わしたメッセージが残っていた。
『また仕事場で』
自分が送った言葉。
既読のまま止まっている。
その時。
初めて気づいた。
俺、
湊が思ってたよりずっと大事だったんだな。
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