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第63話

榊原の家に着いた頃にはすっかり日が暮れていた。 玄関のドアが開く。 「ただいま」 久しぶりに聞くその言葉に、 少しだけ胸がざわついた。 靴を脱いで部屋へ入る。 そして。 「……」 思わず立ち止まる。 いつも以上に散らかっていた。 床には服。 ソファにも服。 テーブルには書類。 椅子にも服。 なんなら洗濯かごからも服が溢れている。 「誰かさんが掃除に来てくれないからさ」 榊原が靴を脱ぎながら言う。 「こんなに散らかっちゃった」 どこか楽しそうだった。 「……すみません」 反射的に謝る。 「なんで謝るの」 榊原は笑った。 でも。 その光景を見たら身体が勝手に動く。 とりあえず洗濯物を集めよう。 そう思い、 近くに落ちていたシャツへ手を伸ばした。 その瞬間。 「触っちゃダメ」 思わず動きが止まる。 振り返る。 榊原がこちらを見ていた。 「それは後から」 いつもの軽い調子じゃない。 少しだけ真面目な声だった。 「座って」 テーブルの椅子を引く。 「……でも」 「座って」 もう一度言われる。 仕方なく椅子へ腰を下ろした。 榊原はキッチンへ向かう。 冷蔵庫を開ける音。 コップに何かを注ぐ音。 しばらくして、 マグカップを目の前に置いた。 「飲みな」 そして。 向かいの席へ腰を下ろす。 部屋は散らかっているのに。 なぜか掃除は始まらない。 「俺さ」 榊原が口を開いた。 「こう見えて結構怒ってるんだよね」 その言葉に、 湊は思わず顔を上げた。 ここから先は、 掃除の話じゃないんだと気づいた。

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