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第64話
「俺さ」
榊原がマグカップを持ったまま言う。
「仕事場で湊見ないなーって思ってたの」
「……」
「忙しいんだろうなって」
「俺も忙しかったし」
小さく息を吐く。
「そしたらさ」
「辞めてるし」
湊の肩が少し縮こまる。
「電話かけても出ないし」
「……」
「やっと見つけたと思ったら」
少し間。
「コンビニでバイトしてるし」
「ごめんなさい……」
反射的に謝る。
榊原は机に突っ伏した。
「はぁー……」
大きなため息。
「相談してくれても良かったじゃんか」
「……」
「俺そんな頼りなかった?」
「違います」
即答だった。
「じゃあなんで」
榊原が顔だけ上げる。
「なんでなんで」
「……」
「なんで連絡くれなかったの」
完全に拗ねていた。
「辞める時だってさ」
「引っ越す時だってさ」
「バイト決まった時だってさ」
指を折りながら数える。
「一個くらい言ってくれてもよくない?」
「……」
「俺だけ何も知らないの悲しいんだけど」
その言葉に、
湊は俯く。
言い返せない。
だって本当にそうだから。
「連絡先……」
ぽつりと呟く。
「ん?」
「消えました」
「は?」
榊原が固まる。
「スマホ変えて」
「データ移行知らなくて」
「全部消えました」
数秒の沈黙。
「……」
「……」
「マジで?」
「マジです」
榊原は天井を見上げた。
「嘘だろ……」
頭を抱える。
「俺あんなに探したのに」
「ごめんなさい」
「いやもうそこはいい」
そう言いながらも、
どこか安心したように笑う。
「わざとじゃなかったんだな」
「はい」
「よかった」
その言葉は思ったより優しかった。
そして榊原は椅子から立ち上がる。
「とりあえず」
「今日はどこにも行かせないから」
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