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第70話

バイトの時間に合わせて家を出る。 着替えを済ませると、 榊原は当然のように車の鍵を手に取った。 「行くぞ」 「……はい」 助手席へ乗り込む。 車は静かに走り出した。 朝の道路。 流れていく景色を眺めながら、 湊は少しだけ欠伸をする。 「まだ眠い?」 「少し」 「昨日あれだけ寝たのに?」 「はい」 榊原は呆れたように笑った。 しばらくしてコンビニへ到着する。 車を降りようとした時だった。 「そうだ」 榊原に呼び止められる。 振り返る。 紙袋を渡された。 「弁当作っといたから」 「……」 「昼に食べろ」 「ありがとうございます」 紙袋を受け取る。 少し温かかった。 「あと」 榊原は当然のように続ける。 「帰り迎え来るから」 「はい」 「はいじゃなくて」 「ちゃんと待ってろよ」 「はい」 「よし」 満足そうに頷く。 湊は車を降りた。 そのまま店へ向かう。 振り返ると、 榊原の車はまだそこにあった。 湊が店へ入るのを確認してから、 ようやく走り出していった。 「おはようございます」 バックヤードへ入る。 すると。 空気がおかしかった。 みんながこっちを見ている。 「湊くん!」 「はい」 「さっきの人誰!?」 いきなりだった。 「え」 「彼氏!?」 「違います」 即答する。 「じゃあ兄弟?」 「違います」 「親戚?」 「違います」 「じゃあ何!?」 勢いがすごい。 湊は少し考える。 何だろう。 「……知り合いです」 「絶対違うでしょ!」 全員からツッコミが飛んだ。 「だってお弁当渡してたじゃん!」 「迎えに来るって言ってたじゃん!」 「めちゃくちゃ心配してたじゃん!」 「顔も良かったし!」 最後のは関係ない気がした。 「ほんとに知り合いです」 「嘘だぁ」 誰も信じてくれない。 湊は困った。 説明が難しい。 榊原との関係を何と言えばいいのか、 自分でもよく分からなかった。 「怪しいなぁ」 「怪しくないです」 「じゃあ今度紹介して」 「無理です」 「即答!?」 朝から騒がしい。 でも。 少しだけ楽しかった。 紙袋をロッカーへしまいながら、 湊は昼休憩を少しだけ楽しみにしていた。

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