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第71話(榊原side)
仕事へ向かう車の中。
窓の外の景色が流れていく。
次の現場まであと三十分。
榊原は後部座席でぼんやりしていた。
「マネ」
「はい」
「俺さ」
嫌な予感がしたらしい。
マネージャーは手帳から顔を上げない。
「なんですか」
「仕事減らしたい」
沈黙。
数秒。
「急にどうしたんですか」
ようやく顔を上げる。
榊原は窓の外を見たままだった。
「気にかけてた子が辞めてから」
少し間。
「やる気出ない」
マネージャーは深いため息を吐いた。
「それは私情すぎませんか」
「私情だよ」
「認めるんですね」
「認める」
即答だった。
「だから減らしたい」
「減らせません」
「無理」
「無理じゃありません」
「無理」
「子供ですか」
「そうかも」
榊原は真顔だった。
マネージャーは頭を抱える。
「次の仕事ですよ」
「無理」
「現場入ってください」
「無理」
「榊原さん」
「無理」
「その"無理"しか言えないんですか」
「今は言える」
「言うな」
車内が静かになる。
しばらくして。
「ちなみに」
マネージャーが口を開く。
「その子、見つかったんですよね?」
「見つかった」
「元気だったんですよね?」
「元気だった」
「じゃあいいじゃないですか」
榊原は不満そうな顔をした。
「よくない」
「なんで」
「俺が知らないところで生きてた」
「当たり前では」
「コンビニで働いてた」
「良かったじゃないですか」
「引っ越してた」
「だから?」
「連絡先消えてた」
「それは聞きました」
マネージャーはまたため息を吐く。
「結局何が不満なんですか」
榊原は少し考える。
そして。
「寂しかった」
「……」
「……」
車内が静まり返る。
マネージャーは静かに前を向いた。
「次の仕事頑張ってください」
「話変えた」
「変えました」
「ひどくない?」
「十分聞きました」
「冷たい」
「売れっ子俳優の愚痴を聞くのも仕事なんで」
榊原は不満そうに唸る。
でも。
少しだけ機嫌は良くなっていた。
湊がちゃんと生きている。
それだけで、
思っていたより救われていたからだった。
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