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第72話(榊原side)
仕事へ向かう車の中。
「そういえば」
マネージャーがスケジュール帳をめくりながら口を開いた。
「来週から新人研修入りますので」
「ん?」
「二、三週間ほど新しい子が担当につきます」
榊原は少し考える。
「あー」
「もうそんな時期か」
毎年恒例だった。
新人マネージャー候補を、
現場に同行させて経験を積ませる。
当然。
担当する芸能人側にも説明がある。
「頭に入れといてください」
「はいはい」
適当に返事をする。
「絶対聞いてない」
「聞いてるよ」
「ほんとですか?」
「新人来るんでしょ」
「そこだけですね」
榊原は笑った。
窓の外を見る。
新人か。
毎年いる。
緊張してる子。
空回りする子。
メモばかり取る子。
色々いた。
「今年はどんな子?」
「真面目です」
「それ毎年聞く」
「今年も真面目です」
マネージャーは即答した。
「面白みないな」
「仕事に面白み求めないでください」
そんな会話をしていると、
スマホが震える。
ちらりと見る。
通知。
湊だった。
『今日もお弁当ありがとうございました』
短い文章。
それだけ。
でも。
榊原は思わず笑った。
「気持ち悪い顔してますよ」
「ひどくない?」
「誰です?」
「湊」
「あぁ」
マネージャーは納得したように頷く。
「例の」
「例の言うな」
「最近機嫌いいですもんね」
「そう?」
「自覚ないんですね」
榊原はスマホを見つめる。
たった一行。
それなのに。
さっきまで面倒だった仕事が、
少しだけ頑張れそうな気がした。
「チョロいですね」
「うるさい」
そう言いながら、
榊原は返信画面を開いた。
新人研修のことなんて、
もう半分忘れていた。
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