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第74話(榊原side)
新人マネージャーはよく喋る。
「この前行ったカフェがですね〜」
「これ美味しそうで〜」
「昨日もですね〜」
ずっと喋っている。
「今日のスケジュール確認した?」
「あ、後でやっときますね」
「それより〜」
また話が逸れる。
仕事の話より雑談ばかり。
正直もう聞き飽きた。
窓の外を見る。
湊、今頃何してるだろう。
そういえば。
この前荷物届けてもらった時、
結局会えなかったな。
せっかく会社まで来てくれたのに。
そんなことを考えていると。
「そういえば〜」
新人が思い出したように口を開いた。
「榊原さんの荷物を知らない人が持ってたんですよ」
「へぇ」
適当に返事をする。
「気持ち悪かったぁ」
榊原の視線がゆっくり向く。
新人は気づかない。
「関係者しか入れない休憩室にいたんですよ?」
「だからちゃんと言っときました」
得意げだった。
「関係者じゃないなら出て行ってくださいって」
「……」
「だって危ないじゃないですか」
「荷物も持ってましたし」
「マネとしては当然ですよね」
誇らしそうに笑う。
榊原は何も言わない。
ただ。
静かに新人を見る。
「そう」
一言だけ。
「はい!」
新人は嬉しそうだった。
褒められたと思ったらしい。
「ちゃんと対応できたので」
「うん」
「大事なことですよね」
「そうだね」
榊原は頷く。
それだけだった。
怒らない。
否定もしない。
笑顔も崩さない。
でも。
さっきまで適当に返していた相槌が、
急に短くなった。
「榊原さん?」
「何?」
「いえ、なんでもないです」
新人は首を傾げる。
何か違う気がする。
でも分からない。
榊原は再び窓の外を見る。
その表情は穏やかだった。
だけど。
胸の奥では。
静かに。
本当に静かに。
腹を立てていた。
湊は人の輪に入るのが得意じゃない。
それくらい知っている。
だからこそ。
何を言われたのか。
どんな顔をしたのか。
考えたくなかった。
車の窓に映る自分を見ながら、
榊原は小さく息を吐いた。
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