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第80話(榊原side)

榊原は深夜に帰宅した。 鍵を開ける。 静かな家。 いつもなら誰もいないはずの空間。 だけど今は違う。 「ただいま」 小さく呟く。 返事はない。 もう寝ているだろう。 荷物を置く。 ネクタイを緩める。 そしてリビングへ向かった。 部屋の電気は消えていた。 窓から入る街灯の光だけが部屋を照らしている。 その光の中で。 ソファに誰かがいた。 「……」 湊だった。 丸くなって寝ている。 それだけならまだいい。 問題は。 抱えているものだった。 「なんだそれ」 思わず笑う。 見たことのないキャラクターのぬいぐるみ。 ぎゅっと抱きしめている。 取られたら困るみたいに。 寝顔を見る。 気持ち良さそうだった。 少しだけ口が開いている。 榊原はその場にしゃがみ込んだ。 「寂しかったのかな」 無意識に呟く。 たぶん違う。 湊はそんなこと言わない。 そもそも自覚もしてないだろう。 でも。 ぬいぐるみを抱えて寝ている姿を見ると。 そう思ってしまう。 「ただいま」 今度は本人に向かって言う。 返事はない。 代わりに。 湊がぬいぐるみを少し強く抱きしめた。 榊原は吹き出した。 「それ俺じゃダメ?」 当然返事はない。 だから。 少しだけ髪を撫でる。 そして。 起こさないようにそっとブランケットを掛けた。 その時。 ぬいぐるみを抱えていた手が緩む。 代わりに。 ブランケットを掴んだ。 「……」 可愛い。 本気でそう思ってしまった。 疲れていたはずなのに。 なんだか一気に元気になった気がした。 榊原はしばらくソファの前にしゃがんだまま、 ぬいぐるみを抱いて眠る湊を眺めていた。

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