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第83話
コラボキャンペーンが終わった。
忙しかった。
本当に忙しかった。
対象商品の補充。
景品の確認。
問い合わせ対応。
レジ。
品出し。
気づけば毎日走り回っていた気がする。
でも。
無事に終わった。
店長にも褒められた。
スタッフ達ともお疲れ様を言い合った。
だから。
榊原に言いたかった。
頑張ったこと。
ちゃんと終わったこと。
だけど。
その日の榊原は帰りが遅いらしかった。
『今日は遅くなる』
届いたメッセージはそれだけ。
湊は夕飯を食べた。
風呂も入った。
洗濯も終わらせた。
やることは全部終わった。
時計を見る。
まだ帰ってこない。
ソファに座る。
テレビをつける。
なんとなく眺める。
内容は頭に入ってこなかった。
時計を見る。
まだ帰ってこない。
「……」
ふと玄関の方を見る。
帰ってきたらすぐ分かるな。
そんなことを考えた。
気づけばぬいぐるみを抱えて玄関へ移動していた。
別に意味はない。
たぶん。
壁にもたれる。
帰ってきたら話そう。
キャンペーン終わったこと。
店長に褒められたこと。
頑張ったこと。
そんなことを考えているうちに、
いつの間にか眠っていた。
ガチャ。
深夜。
玄関の鍵が開く音がした。
「ただいまー」
返事はない。
榊原は靴を脱ぎながら首を傾げる。
もう寝たのか。
そう思いながら顔を上げる。
「……」
玄関の壁にもたれて座る人影。
近づく。
湊だった。
腕の中にはあのぬいぐるみ。
ぎゅっと抱きしめたまま眠っている。
「何してんの」
思わず笑ってしまう。
しゃがみ込む。
気持ち良さそうに寝ていた。
完全に寝ている。
「こんなとこで寝たら風邪ひくよ」
頬を軽く触る。
反応はない。
「湊」
呼んでみる。
起きない。
「おーい」
やっぱり起きない。
榊原は苦笑した。
そして。
そっと頭へ手を伸ばす。
さらりと髪を撫でる。
一回。
二回。
優しく撫でる。
「……ん」
湊の眉が少し動いた。
「お」
もう一度撫でる。
「……んー」
今度は目が少し開く。
ぼんやりした視線が榊原を捉えた。
数秒。
頭が回っていないらしい。
「……榊原さん」
「うん」
「おかえりなさい」
寝起きの声だった。
榊原は思わず笑う。
「ただいま」
そう返すと、
湊はぬいぐるみを抱えたまま小さく頷いた。
「キャンペーン終わりました」
第一声がそれだった。
榊原は一瞬固まる。
そして吹き出した。
「それ言うために待ってたの?」
「たぶん」
「たぶんって」
「頑張りました」
眠そうな顔のままそう言う。
榊原はもう一度頭を撫でた。
「うん」
「頑張ったな」
その言葉を聞いた湊は、
少しだけ安心したように目を閉じた。
そして数秒後には、
また眠ってしまっていた。
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