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第86話

そんなことを考えていた時だった。 スマホが震える。 榊原からだった。 通話ボタンを押す。 「はい」 『あ、湊?』 聞き慣れた声がする。 『今日さ』 『思ったより早く終わりそうなんだけど』 「はい」 『何か食べたいものある?』 食べたいもの。 少し考える。 さっきまで考えていたことが頭に浮かぶ。 そして。 「ナン」 数秒の沈黙。 『なん?』 『な?』 『ん?』 榊原が混乱している。 「あ」 今気づいた。 「この前頼んだカレーのナン美味しかったなって思ったのが口に出ました」 電話の向こうで笑い声が聞こえた。 『ははっ』 『なるほどね』 『んじゃ今日はカレーにしようか』 「はい」 『ナン追加しとく?』 「お願いします」 『了解』 電話が切れる。 湊はスマホを見つめた。 カレー。 消えた。 誕生日候補から。 「……」 一つ減った。 どうしよう。 ハンバーグ。 オムライス。 パスタ。 いや。 榊原なら何でも喜びそうな気もする。 でも。 せっかくならちゃんとしたい。 プレゼントも買った。 ケーキも予約した。 だからご飯も失敗したくない。 「……」 次のバイトの時に聞いてみようかな。 スタッフさん達なら詳しそうだ。 おすすめのお店もいっぱい知っている。 そう考えると少し気が楽になった。 とりあえず今日はカレー。 もちもちのナン。 それを楽しみにしながら、 湊は帰宅した榊原にどうやって好きな食べ物を聞こうか考え始めたのだった。

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