87 / 113
第87話
榊原が帰ってくると、玄関を開けた瞬間からいい匂いがした。
「ただいまー」
「おかえりなさい」
榊原の手には大きな紙袋。
中身は見なくても分かる。
カレーだ。
「ちゃんとナンもあるぞ」
「ありがとうございます」
二人でテーブルにつく。
手を合わせる。
「いただきます」
「いただきます」
まずはカレーをひとくち。
口の中にスパイスの香りが広がる。
少し辛い。
でも美味しい。
そしてナン。
もちもちしている。
やっぱり好きだと思った。
今日は前より少し豪華だった。
チーズナンまである。
伸びるチーズを見ながら食べる。
幸せだった。
何気なく榊原の方を見る。
自分とは違うカレーだった。
「それは何カレーですか」
「んー?」
榊原が自分の皿を見る。
「キーマだったかな」
「そうなんですね」
少し気になる。
「好きなんですか」
「好きだよ」
榊原はナンをちぎりながら答える。
「基本なんでも食べるけどね」
「嫌いなものとかないんですか」
「んー」
少し考える。
「考えたことないかも」
「ないんですか」
「ないかも」
本当に無さそうだった。
「でも最近はカレー系にハマってるかな」
「カレー系」
「店によって全然違うじゃん」
「なるほど」
「あとナン好き」
「ナン好きなんですか」
「好き」
即答だった。
その様子に少しだけ笑ってしまう。
「湊も好きでしょ」
「好きです」
「知ってる」
榊原も笑った。
そのまま会話は別の話題へ移っていく。
だけど。
湊の頭の片隅には残っていた。
最近はカレー系にハマっている。
何気ない会話だった。
榊原は覚えていないかもしれない。
でも。
湊にとっては大事な情報だった。
誕生日のご飯。
もしかしたら。
カレーもありなのかもしれない。
そんなことを考えながら、
湊はこっそり頭の中のメモに追加した。
ともだちにシェアしよう!

