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第88話

次のシフトの日だった。 湊はいつも通り働きながら、スタッフ達に色々聞いて回っていた。 「誕生日って何すると喜ぶと思います?」 「誰の?」 「知り合いです」 その返答にスタッフ達は怪しい目を向けてきた。 「絶対知り合いじゃないでしょ」 「知り合いです」 「好きな人?」 「違います」 即答だった。 結局誰の誕生日かは教えなかったが、みんな色々教えてくれた。 好きな食べ物。 ケーキ。 プレゼント。 サプライズ。 休憩中にも聞いた。 仕事終わりにも聞いた。 「手料理とか嬉しいんじゃない?」 その言葉を聞いた時だった。 「あ」 ふと思い出す。 昔食べた味。 何度も食べていた味。 自分にとっての思い出の味。 最近は食べることも増えた。 味も分かるようになった。 だったら。 たまには自分で作ってみてもいいかもしれない。 材料だって買える。 今はお金の心配もしなくていい。 失敗したとしても。 やってみたいと思った。 バイトが終わる。 帰り道。 湊はスマホを取り出した。 連絡先を開く。 少しだけ迷う。 そして通話ボタンを押した。 数回のコール音。 『もしもし?』 聞き慣れた声がする。 「もしもし」 『湊?』 「久しぶり」 母は少し驚いたようだった。 『どうしたの?』 少しだけ息を吸う。 そして。 「お願いがあるんだけど」 『お願い?』 「昔作ってくれた料理の作り方教えてほしい」 電話の向こうが静かになる。 数秒。 『……珍しいわね』 少しだけ笑う声が聞こえた。 『急にどうしたの?』 「作ってみたくなっただけ」 嘘ではなかった。 でも。 誕生日のことはまだ秘密にしておこうと思った。 『そう』 母の声は少しだけ嬉しそうだった。 『じゃあちゃんと教えてあげる』 湊は小さく頷いた。 きっと。 うまく作れるかは分からない。 でも。 喜んでくれたらいいな。 そんなことを思いながら、湊は母の話に耳を傾けた。

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