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第97話

そろそろ寝よう。 そう思った湊は立ち上がった。 「おやすみなさい」 「ん?」 「ゲストルーム行ってきます」 そう言って歩き出そうとした時だった。 腕を掴まれる。 「今日からこっち」 「……?」 榊原に引っ張られる。 向かった先は。 榊原の寝室だった。 「ここですか」 「ここ」 「なぜですか」 「なぜって」 榊原はベッドへ腰掛ける。 「ソファで一緒に寝れたじゃん」 「寝てないです」 「寝てたよ」 「不可抗力です」 「結果は同じ」 話が通じない。 湊は少し考える。 「一緒に寝る意味ってありますか」 すると。 榊原は少しだけ黙った。 いつもの冗談っぽい返しが来ると思っていた。 でも違った。 「俺はあるよ」 静かな声だった。 「なんですか」 湊が聞く。 榊原は少しだけ笑った。 でも。 どこか寂しそうだった。 「寝て起きたら」 少し間。 「湊がいなくならないように」 言葉が止まる。 返事ができなかった。 思い出す。 仕事を辞めたこと。 引っ越したこと。 電話も変えたこと。 何も言わずに消えたこと。 あの時。 榊原は怒っていた。 でも。 怒っていたんじゃなくて。 怖かったのかもしれない。 「……」 何も言い返せない。 そんな湊を見て。 榊原は立ち上がった。 「さ」 ぽんと肩を叩く。 「寝よ寝よ」 急にいつもの調子に戻る。 「明日も仕事だし」 「はい」 「あと俺眠い」 「知ってます」 「ひどいなぁ」 そう言いながらベッドへ潜り込む。 湊も少し遅れて横になる。 思ったより広かった。 二人で寝ても十分な広さ。 部屋の電気が消える。 静かな夜。 「湊」 暗闇の中で声がした。 「はい」 「おやすみ」 少しだけ間を置いて。 「おやすみなさい」 返事をする。 すると。 隣から安心したような小さな息が聞こえた。 その夜は、 どちらも珍しくすぐに眠りについた。

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