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第101話(榊原side)
「先輩、よろしくお願いします」
現場へ入るなり後輩の久地が挨拶してくる。
「はいはい」
榊原は台本へ目を落としたまま適当に返事をした。
「そういえば」
久地が思い出したように言う。
「今日、湊さん来てるんですね」
榊原の視線が上がる。
「お前会ったのか」
「挨拶だけです」
久地は笑う。
「可愛らしい方ですね」
沈黙。
数秒。
榊原は台本を閉じた。
「狙うなよ?」
久地が吹き出した。
「狙いませんよ」
「怖いなぁ」
「ほんとに?」
「ほんとです」
久地は両手を上げる。
「ていうか」
苦笑しながら続けた。
「その反応する時点で自覚あるじゃないですか」
「何の話?」
「いやいや」
久地は笑う。
「コンビニで見つけた時もそうでしたけど」
「あの時の先輩めちゃくちゃ怖かったですよ」
榊原は知らん顔をする。
「覚えてないな」
「覚えてますよ絶対」
「覚えてない」
「嘘だ」
久地は呆れたように肩をすくめた。
「まぁ安心してください」
「俺は狙いません」
「そう」
「というか」
少し考える。
「狙える空気じゃないですし」
榊原の眉が少し動く。
「どういう意味?」
「だって」
久地は笑う。
「先輩ずっと湊さん見てるじゃないですか」
「見てない」
即答だった。
「見てますって」
「見てない」
「見てます」
「見てない」
子供みたいな会話になる。
そして。
「まぁでも」
久地は少しだけ真面目な顔になった。
「見つかってよかったですね」
その言葉に。
榊原は何も返さなかった。
ただ。
少しだけ視線を落とす。
仕事を辞めたと聞いた日。
電話が繋がらなかった日。
どこにいるかも分からなかった日。
思い出したくもない。
だから。
「……そうだね」
小さくそう答えた。
久地はそれ以上何も言わなかった。
ただ。
少し離れた場所でスタッフに囲まれている湊を見て。
「あの人、全然気付いてないんだろうなぁ」
と心の中で思ったのだった。
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