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第105話

朝、目が覚めた。 隣を見る。 榊原はもう起きていた。 いつもなら。 おはようとか。 眠そうだねとか。 そんな会話がある。 でも今日は違った。 「おはよう」 「おはようございます」 それだけ。 空気は昨日のままだった。 重たい。 どこかぎこちない。 スマホが震える。 コンビニからだった。 メッセージを開く。 『怪我もあるし今日も休んで大丈夫だからね』 短い文章。 優しさなのは分かる。 でも。 胸は少し痛んだ。 何もできない。 またそう言われた気がした。 「バイトは?」 榊原が聞いてくる。 「休みになりました」 「そっか」 一瞬だけ考える。 そして。 「んじゃお家でお留守番だね」 「はい」 返事をする。 「家から出ちゃダメだよ」 「わかった?」 「はい」 「うん」 榊原は立ち上がる。 服を着替える 時計を見る。 誕生日に渡した時計だった。 毎日つけてくれている。 それを見ても。 今日は少しも嬉しくなれなかった。 「行ってきます」 「いってらっしゃい」 玄関のドアが閉まる。 静かになる。 ひとり。 リビングに残される。 テレビもついていない。 洗濯も終わっている。 掃除も必要ない。 やることがない。 ソファへ座る。 ふと。 怪我をした指を見る。 小さな絆創膏。 たったこれだけなのに。 昨日から何もさせてもらえない。 前の職場も。 コンビニも。 榊原も。 みんな優しい。 優しいはずなのに。 その優しさが。 今の湊には少しだけ苦しかった。 「……」 窓の外を見る。 空は晴れていた。 それなのに。 胸の中だけ、 ずっと曇ったままだった。

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