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第108話

それからだった。 榊原のスキンシップが増えた気がする。 頭を撫でる。 肩を抱く。 気づけば隣にいる。 寝る時も距離が近い。 最初は戸惑った。 でも。 不思議と嫌ではなかった。 むしろ。 榊原といると落ち着く。 そんな気がしていた。 ある日の夕飯中。 「来週からまた地方かぁ」 榊原がぼやく。 「今度はどれくらいですか」 「んー」 少し考える。 「二週間とか?」 「長いですね」 湊が素直に言う。 すると。 「やだ」 「え」 「無理」 そして。 ぎゅっ。 抱きしめられる。 「湊不足になる」 「そんなことあります?」 「ある」 即答だった。 「毎日補給してるから」 「人を何だと思ってるんですか」 「癒し」 「そうですか」 いつものやり取り。 いつもの榊原。 だから。 その時は深く考えなかった。 そんなになるかな。 少し大袈裟じゃないだろうか。 そう思っていた。 そして。 一週間後。 榊原は地方へ行った。 「いってきます」 「いってらっしゃい」 手を振る。 いつも通り。 二週間なんてすぐだと思った。 コンビニのバイトもある。 前の職場の手伝いもある。 やることはたくさんある。 だから大丈夫。 そう思っていた。 最初の数日は平気だった。 ちゃんと起きる。 ちゃんと働く。 ご飯も食べる。 洗濯もする。 生活はできていた。 でも。 何かがおかしい。 仕事中。 無意識にスマホを見る。 通知はない。 当たり前だ。 仕事中だろうし。 そう思う。 帰宅する。 「ただいま」 言ってから気づく。 返事はない。 静かだった。 テレビをつける。 なんとなく音が欲しい。 でも。 落ち着かない。 ソファに座る。 ぬいぐるみを抱く。 少しだけ楽になる。 でも違う。 何か足りない。 寝る時間になる。 ベッドへ入る。 広い。 いつもより。 妙に広い。 「……」 目を閉じる。 眠れない。 スマホを見る。 榊原からのメッセージ。 『撮影終わった』 『ご飯食べた?』 たったそれだけ。 なのに。 少しだけ安心する。 返事を打つ。 『食べました』 数秒後。 『えらい』 思わず吹き出した。 何だそれ。 そう思う。 でも。 胸の奥が少しだけ軽くなる。 そこで初めて気づいた。 あれ。 もしかして。 榊原不足になってるの。 俺の方じゃないか。 その考えが浮かんだ瞬間。 湊は慌てて布団を被った。 考えない。 今は考えない。 でも。 心臓だけが少しうるさかった。

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