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第112話
今日も今日とて、
湊は前の職場の手伝いに来ていた。
午前中の仕事も落ち着き、
休憩室で飲み物を飲んでいた時だった。
「はぁぁ……」
大きなため息。
また誰かが落ち込んでいるらしい。
「どうしたんですか」
湊が聞くと、
スタッフが机に突っ伏した。
「聞いてよぉ」
「榊原さんさぁ」
嫌な予感がした。
「気になる人に告ったらしいの!!」
休憩室が一気にざわつく。
「えぇ!?」
「マジ!?」
「しかも指輪渡したんだって!!」
「待って待って待って」
「情報量多い」
大騒ぎになっている。
湊はお茶を飲む。
静かに。
なるべく目立たないように。
「しかも同性愛者らしいし」
「えぇぇぇぇ!?」
さらに盛り上がる。
「でもでも」
「相手どんな人なんだろうね」
「気になるぅ」
「羨ましいぃ」
「私も指輪ほしい」
そんな会話が飛び交う。
湊は黙ってお茶を飲む。
熱い。
お茶が熱い。
いや。
顔が熱い。
その時だった。
休憩室の扉が開く。
「あ」
榊原だった。
スタッフ達が一斉に静かになる。
本人である。
話題の中心人物である。
「榊原さん」
「お疲れ様です」
「お疲れー」
いつも通り。
榊原は周囲へ軽く手を振る。
そして。
真っ直ぐ湊の前まで来た。
「湊」
「はい」
小さな袋を差し出される。
「これ食べといて」
「ありがとうございます」
中を見る。
おにぎりだった。
好きな具だった。
「昼ちゃんと食べろよ」
「はい」
いつものやり取り。
そのはずだった。
でも。
スタッフ達の視線が痛い。
妙に痛い。
その理由はすぐ分かった。
榊原が袋を渡した時。
左手が見えた。
薬指。
そこには指輪。
キラリと光る。
湊は思わず自分の手を見る。
同じだった。
色も。
形も。
全部。
「いいなぁ」
スタッフがぽつりと呟く。
「オソロの指輪」
「私もほしい」
「わかるぅ」
「羨ましい」
「誰なんだろうねぇ」
「絶対幸せ者じゃん」
休憩室は再び盛り上がる。
湊は黙る。
榊原も黙る。
数秒。
目が合う。
すると。
榊原が吹き出した。
「ふっ」
「?」
「いや」
肩を震わせている。
「なんでもない」
絶対なんでもある。
でも。
説明する気はないらしい。
そして。
スタッフ達はまだ気付いていない。
目の前に答えがいることに。
その事実が。
少しだけ面白かった。
[完]
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