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第9話 恋人ごっこのはずなのに ※

「ほら。こっちを向いて」  熱を孕んだ瞳で催促されて、保はゆっくりと紅く染まった顔を峰山に向ける。くすり、と笑われて前髪を手で梳かれた。梅雨の雨の匂いが部屋の中を包み込んでいく。 「フリだけでいいから。ね、保」  常に持参しているのだろうか。峰山は丸鞄の中からローションを取り出すと保の丸く湾曲した尻に塗りたくってくる。その冷たさにびくりと体を揺らすと、背中に抱きつかれた。これって……素股?  「足、閉じて」  混乱する頭を抱えながら言われた通りに足を閉じる。何で俺、こいつの言うことに従ってるんだろう。俯きながらそんなことを考えていると、ぬるっと下半身が合わさった。ずぷずぷと音を立てながら足の間を出たり入ったりする峰山のものをぼんやりと見つめる。  自身のものはへなへなと萎れていた。それに気づいたのか、峰山は濡れた手で保のものを揉み込んでくる。否応なしに反応していく体をじっと見つめていた。恥ずかしい、気持ちいい。二つの感情が胸の中を渦巻いている。 「保。どうだ。気持ちいいか」  やや息を上げて峰山が聞いてくる。触れられるところがじわじわと熱を帯びていく。 「もう少し、足をきつく閉めてくれ」 「……」  両腿に力を入れて峰山のものを締め付ける。峰山がはっと吐息を漏らした。そのまま激しく腰を動かされて畳の上に白濁が飛び散る。背中にずっしりと峰山の重みを感じた。保の昂りを解放せんとゆるゆると峰山の手が動く。その動きに翻弄されて保は意識を手放しかけた。たらり、と紅い液体が保の鼻から流れて畳を濡らす。 「おい、大丈夫か?」 「も、無理……」  だらだらと鼻血を流しながら保が呟く。平机の上に置いてあったティッシュを数枚取って、峰山は保の鼻にあててくれる。その手が優しかった。保の鼻血はなかなか止まらず、峰山に上を向くように言われる。つん、と鉄の錆びたような匂いが鼻に充満した。  情けない。これではステレオタイプの男みたいじゃないかと沈黙していると、峰山の手が背中を撫でた。 「保にも可愛いところがあるじゃないか」  苦笑しながら峰山が言う。保はそれをキッと睨んでいた。突然の出血に体も驚いてしまったのか、脚の間の熱はとうに冷めきっている。そのまま上を向いていると峰山が服を着る布ずれの音が耳に入ってきて、なんともいえない心地になる。 「さぁ。俺は稽古があるから先に行くよ。鼻血が止まったら自分の部屋におかえり」  そのまま振り向くことなく部屋を後にした峰山をくらくらする視界の隅で確認して、保は畳の上に突っ伏した。しばらくは止まりそうにない。  男同士でも普通に気持ちよかった。そのことが衝撃的で保の頭をごおんと揺さぶる。役に入り込めばいいと峰山は言っていたが、あれは保そのものだった。女性とは何度かお付き合いをして体を重ね合ったことがあるが、鼻血が出るほど興奮したことは一度もない。  峰山が現れてから自分でも知らなかった己の一面と向き合うようになった気がして、胸がこそばゆい。いつのまにか窓を叩いていた雨が上がっていた。窓の外には雲の流れる穏やかな雨上がりの空が広がっていた。

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