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第15話 友達に無理やり合コンに連れていかれた

「大輝くんってほんとおしゃれだよね。モデルみたいでかっこいい」 「ありがとう。美咲ちゃんもかわいいよ。そのふわふわの髪型とか、ね」  さっそくいつもの調子で女子をおだてる大輝を横目にパンケーキを頬張る。実は初めて食べた。あまりの柔らかさに目を丸くしてがっついていると、正面に座る女子がじっとそれを見つめてきているのに気付く。 「保くん、甘いの好きなの?」  どこか強気な雰囲気を醸しだす彼女の名前は、たしか愛理というらしい。 「まあ、地元にはパンケーキ屋なんてないからさ」 「旅館でアルバイトしてるんだってね。どう? 大変?」  大変に決まってると思いながら顔を上げる。赤いリップに大きな二重。髪は真っ黒のストレートで、眉がきりりとしている。似ているわけでもないのに峰山の顔が頭に浮かんだ。 「そこそこ。愛理さんはバイト何してるの?」  相手をさん付けにして少し距離を取る。彼女は頬杖をついてこちらを見た。 「化粧品売り場の販売員。マダムの相手するの結構疲れるんだよね」  当たり障りのない会話をしつつ、早く終われと心から願う。愛理さんは残りの二人が楽しげにそれぞれの男と話しているのを気にしている様子はなかった。彼女もあまり乗り気ではないようだ。アイスティーを口にしながら窓の方を眺めている。整った顔には、つまらないと書いてあるようだった。  パンケーキを平らげ一度席を立ちトイレに向かうと後ろから大輝がついてきた。用をすまして洗面所で手を洗っていると、ぐいぐいと肩で押される。 「全然やる気ねえじゃん保。せっかく浜女の子達つかまえてきたのに」  浜女というのは、彼女たちの大学の略称だ。正式には横浜女子学院大学。  偏差値六十を超える頭のいいお嬢様が多く通っている大学だった。彼女たちの付属品や服を見れば金がかかっているのがよくわかる。大輝は金持ちの女が好きらしい。甘えればなんでも買ってくれるから都合がいいのだという。  大輝は服を買うために地元から二つ離れた中規模のオフィス街で居酒屋を二つ掛け持ちしている。おしゃれのためだとは言いつつも、要領がいい奴だから仕事もできるタイプで保とは正反対の性格をしている。なぜそんな奴と友達なのか今でもわからない。大輝に気に入られているだけで、こちらはそれに合わせているだけだ。この関係を友達と呼べるのだろうかと日々自問している。  遅れてきた男は大輝のSNS繋がりの友人らしく、ファッションやメンズメイクの話で二人は盛り上がっているようだった。その男とは軽く挨拶をするだけで話をしていない。お互い合わないんだろうなと内心思っているに違いない。  おしゃべりがひと段落するとカラオケに行こうという流れになった。今すぐにでも帰りたかった俺は大輝に頭を下げて途中退席することになった。すると、愛理さんも用事ができたので帰ると言ってきたので、大輝はいやらしい視線を保に送ってきた。  向かう駅が同じということもあり、なんとなく付かず離れずの距離で愛理さんと歩いた。女子と一緒に歩くのは半年ぶりだったので、歩幅を合わせるように心がける。 「保くんってさ、今時の大学生っぽくないよね」  不意にかけられた言葉にどう反応していいか悩む。 「そうかな。それなら愛理さんもあの二人と比べて大人っぽいと思うけど」 「まぁ、そうね。あの子達はれっきとしたお嬢様で甘やかされて育ってきた匂いがぷんぷんするもの。対して私は庶民上がりの一般人。彼女たちより現実的な見方をしてるかもね」  つん、と上を向きながら愛理さんは言う。強気な子なんだなと思った。あの二人の女子よりかは話が合う気がして、言葉を続ける。 「愛理さんはさ、将来の夢とか決まってるの?」  突然何? と言いたげに彼女の視線がこちらを向く。 「さぁね。どこかの大手企業の事務職にでもなろうかな。もしくはバリバリのキャリアウーマン」  彼女は自分の容姿のレベルをよく理解しているらしい。その言葉には現実味があった。頭の良さもうかがえる。 「保くんは? 将来何になるの?」  聞かれて言葉に詰まる。俺はあの旅館で働き続けてオーナーに恩返しをしなくちゃと思っていた。しかし、それでいいのだろうか。行きたい場所があるわけではないが、地元にそのまま居座るというのも少し億劫な気が最近してしまう。しかし、自分の居場所はそこしかないことに気づけば、度を超えた夢なんてのも描けなくなる。 「旅館で働き続けるかな。仕事はわりと好きだし」  その言葉に嘘はない。ただもやもやとした何かが胸を覆う。 「そうなんだね。てっきり、都会に出て行って出世してやるって言うのかと思った」  大輝くんみたいに、と彼女は付け加える。 「俺とあいつは違うタイプだから」 「保くんは受け身のタイプだもんね」  少し棘のある言葉に足が止まる。彼女もゆっくりと足を止めた。 「大輝くんは自分から行こうってタイプだけど、保くんは違う。待つのが癖になってるタイプ」  くるりと振り返った愛理さんのワンピースの裾が揺れる。秋の風が頬を撫でた。 「あんまり待ちぼうけしてると、置いてかれちゃうよ」  愛理さんの瞳はまっすぐ俺を見ていた。何気ない言葉の奥に、真理をつくようなものを感じて静かに頷いた。まさか初対面でここまで自分のことを的確に言葉にする人に出会うとは。合コンも悪くなかったかもしれないと思っていると、彼女がスマホを取り出す。 「連絡先教えてよ。保くんとはいい友達になれそうな気がする」 「……俺も愛理さんになら連絡先教えてもいいよ」  恋人にはなることもないとわかりきっている壁がそこにはあった。本来であれば少し物悲しく思うそれも、今の保には心地よくてスマホを傾ける。お互いの連絡先を交換して、駅の改札で別れた。 「今度、今日より美味しいパンケーキ屋さんに連れてってあげる」  黒い澄み切った瞳と目があって、軽く笑った。 「頼むよ」  地元の駅についてから、都会よりも広く見える空に向かってふうっと深呼吸をする。緑と土の匂いが香る空気をめいっぱい吸い込んで噛み締める。ここが俺の住む町だと。そう信じ込むようにして。

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