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第5話

 ※雪丸×モブ女のR-18描写あり  こんなにとんとん拍子でことが運ぶなんて思っても見なかった。正直張り型が抜けなくなった時は要介護認定まで想像して絶望していたが、あんな風にいい思いをできるんならおつりが来るくらいだ。  安い。安すぎるぜ伊佐道慈。あの常識人な伊佐道慈がたかだかジムのタダ券数ヶ月分で手に入るなんて。雪丸は唇を舐めた。こんなに簡単にチャンスをモノにできるならもっと早く交渉しときゃよかった。  かしかしとライターが空振りする音をBGMに、雪丸は上機嫌で紫煙を吐き出す。計画は計画通りスマートに進んではいないものの、目的には確実に近づいていた。同窓会で道慈と再会してからの7年を考えると、かなり急接近している方だ。  隣でスーツ姿のOLが、火のつかないライターに舌打ちしていた。ポケットからジッポを取り出し、火をよこしてやる。驚いたように振り向いた顔が、しかし欲に負けたのか吸い寄せられるように顔を寄せてきた。 「ありがとうございます」  上目に見上げてきた顔はほのかに赤くなっていた。少しふくよかな丸顔に、体型を隠すブラウス、パツパツの膝丈スカート。この手の女の抱き心地の良さと言ったらない。  雪丸は内心の欲望を見せることなく愛想良く笑った。 「いーえ。困った時はお互い様でしょ」  女はしきりに前髪を直しながら早口で喋った。 「今朝新しいライター買おうと思ってたんですけど、忘れちゃって……」 「あーわかる。俺もオイル補充すんのよく忘れる」  ホスト時代はガス無いと言えば内勤や後輩がすぐに補充してくれた。今はそれがないから不便だ。そもそもジッポそのものにこだわりもないので、普通のライターにしても良いのだが、タバコがあまり好きではない道慈がジッポの匂いだけは悪くないというのでだらだらと使い続けていた。  尻ポケットが振動したのを認めて携帯を手に取る。待っていた連絡先だった。 「ママ、見つけた?」 「開口一番それなの? あんた。あったわよ6ヶ月分」 「倍額で買うわ。マジでありがとう」 「お店いま暇だから友達でも連れて来なさいよ」 「オッケーいくいく」  通話を切って、雪丸はタバコを灰皿に押し付けた。 「お姉さん今暇? ゲイバー行かない?」  はいこれ、と渡されたチケットを数えてから、代わりに財布から紙幣を取り出し数えて渡す。 「ママー! ありがとう! 大好き!」  嬉しさのあまり優待券にキスして、これからのことを夢想する。これさえあれば、もはや道慈は手の内だ。なんとしても道慈の初めて(対男)をもらい、この身体に夢中にしてやる。自分で考えてから、初めてってなんていい響きなんだろうと雪丸は思った。道慈の童貞は知らぬ間にどこの誰とも知らない女に取られていた。だが過ぎてしまったことはしょうがない。道慈の最初で最後の男になればいいだけだ。たくさんいる女よりも一人の男の方が心に残るに違いない。 「なんのチケットなの?」  聞いてきた女にウィンクする。 「俺の夢を叶えるチケット。お姉さんはなんか夢ある?」 「夢かぁ……いつか痩せたらモルディブのビーチで一日中のんびりしたい」 「痩せなくてもできるだろ」 「いまの体型じゃビキニ着れないから」  そう? そのままの方が可愛いと思うけど。頬杖をついて笑いかけると、女がきまり悪そうに目を逸らした。その頬が徐々に染まっていくのが雪丸の目にもはっきりと写った。  そもそもの整った顔立ちに愛想の良い笑みを浮かべて耳障りの良い言葉を並べれば、大概の女はしばらくすれば手に落ちてくる。雪丸は経験則で知っていた。 「な、なんか慣れてるよね……」  空いたグラスを下げながら、もじもじしている女をじっくりと観察する。脳内ではすでにベッドインした後の光景が繰り広げられていた。 「一応アラサーなんで。おかわり何飲む?」 「カルーアミルク」  体型を気にしながら砂糖のかたまりを注文するところが最高。内心で舌舐めずりしながら雪丸はタバコに火をつけた。あと2時間くらいすればやれるかな。まるでピザの生地を焼く前に寝かせる時間を計算するかのように、ホテルに行くまでの時間を計算していた。  ソファで1回、ベッドで1回付き合ってくれた女は当初は恥ずかしがって隠していた裸体を晒したまま、ベッドから腕だけ出してカバンの中を探っていた。  サイドテーブルに水のペットボトルを置きながら、カバンを持ち上げてやる。すると目当てのものを見つけたらしい女が寝返りを打った。そしてタバコを口にしてからライターがないことに気づいたらしい。眉を寄せて起き上がった女の口からタバコをさらって自分の口に咥える。火を着けてから返すと、今度こそ満足そうに女が鼻から白い息を吐いた。 「ははっ、吸い方おっさんかよ」  言いながら女の背中から抱きしめるようにして座り、たぷたぷのお腹を撫でる。この感触を撫でていると、無意識に口から涎が垂れそうになる。そのくらい雪丸は女の皮下脂肪に病みつきになっていた。 「あんたが若過ぎて疲れたの」  されるがままになりながらも、贅肉を遊ばれるのが嫌だったのか手の甲をつねられた。当初の初々しさはどこへやら、女はすっかり慣れてしまったようだった。胸に寄りかかってくるずっしりとした重みが心地よい。 「もう2回くらいなら余裕なんだけど」 「嘘でしょ?」  女が口を引き攣らせるのを認めながら、笑みを浮かべた。鼻先を女の長い髪に埋めてから耳元に口を寄せる。 「休んでて良いよ」 「いや休んでてって……」  首筋にキスを落とすと、女の体が僅かに跳ねる。一度タバコを咥えてしまったら先ほどまでの盛り上がった雰囲気に戻すのは割合難しい。しかし雪丸の欲望は止まらなかった。    もうそのテンションじゃない、疲れた。女は本音を主張しようとして、背後から覗き込んでくる男と目が合い口を結んだ。顔がいい。この一言に尽きる。顔が良過ぎてもはや現実味がない。かきあげた前髪の生え際まできれいだ。吹き出物一つないさらさらの肌。形のいい眉も髪と同じ白に近い金色。横腹から腰骨、太ももを撫で回す手は骨張っており、しっかりと筋肉に覆われた腕には血管が浮いていた。体までいい。前の彼氏に寄りかかったとき、倒れられたことがあった。このお世辞にも細いとは言えない体で寄りかかっても重心を崩すことなく支えてくれる体幹。きれいに腹筋のついた身体。人生で一番ダビデ像に近い身体に抱かれた日だった。無視できない硬さのものが背中に押しつけられている。今日を粗末にしたらこんなイケメンと寝れる機会は二度とこないかもしれない。悶々と損得勘定しているうちにタバコを奪われ、灰皿に押し付けられた。  あ、まだ吸えたのに。名残惜し気に潰されたタバコを見ていると唇が奪われた。我が物顔で入ってくる舌に翻弄されながら、完全に熱が消えていたはずの身体にいつのまにか再び火が灯されていることを知る。  自分でも信じられないほどに下が濡れている。そんなに回数をこなせる年じゃないはずなのに。この顔が悪い。この手が悪い。スキンの袋を噛み切る様すら絵になる男が悪い。  されるがままに背後から抱きしめられながらベッドに横向きに沈む。横になったまま太ももを持ち上げられ、知らず期待に唾を飲んだ。ゆっくりと入ってきた太いものに、背中をぞくぞくと快感が駆け上がった。 「はぁ……気持ちい……」  しっかりと中に収めてから、雪丸の手が腹を優しく撫でる。もう何度腹や腰やらを撫で回されたかわからない。最初はコンプレックスを逆撫でされてるようで嫌だったのに、今は撫でられると腹の奥がくすぐったくなるような快感が走る。ぐずぐずに濡れたつぼみの周りを塗り伸ばすように指が撫でる。ゆっくりと中を出入りする熱と相まって、身体にどんどん熱が溜まりだす。 「ちょっと……っ」 「腰動いてる。やらしい」  意地悪なことを言いながら首筋を舐めてくる。ちゃんと触って、息も絶え絶えにねだると、やっと指先が先端に触れた。あっと声を上げると同時に、中のいいところに熱が穿たれる。先までのセックスとは打って変わってゆっくりなのに、その分快感が尾を引く。上がったまま戻ってこない感覚。  達している女の耳には入ってなかった。サイドテーブルで振動する携帯の音は。 「もし」  変わった声音に急に現実に引き戻される。振り向くと、雪丸が携帯を耳に当てながら、人差し指を唇の前で立てた。悪戯っ子のように楽しそうに笑っている。この状況で電話でる? 普通。女はドン引きしながら、しかし変わらずのろのろと突いてくる腰使いに口を引き結ぶ。なにこいつ、サイテー! これだからイケメンは信用できない。自分はなにしても許されると思ってる人間の振る舞いだ。  電話に応対しながら中のものがビキビキと硬さを増しているのに気づき、女は冷や汗が滲むのを感じた。女のテンションと反比例するかのように中の一物がみなぎっていた。 「社員証? んなもんあったっけ」  携帯を持つのがだるくなったのか、シーツの上に携帯が放られた。ハンズフリーになった画面が女の目にも見えた。電話口から聞こえてきた男の声にびくりと体が固まる。 「お前の部屋にジャケット置いた時に落ちたんだと思うが」  性感帯を触ってこようとする手を必死に退けようとしても、力で勝てるわけがない。ひっとあがりそうになった声を慌てて口を塞ぐことで抑える。ごりごりと硬い一物に中を攻められながら、同時に外側を執拗に撫で回され、萎えてしかるべき状況なのに体が震えだす。 「もうルンパが吸っちゃったかも」  ふざけたように笑ってる男がうらめしい。普通の声音で喋ってるくせに、手も腰もとんでもなくやらしい動きをしている。 「な訳ねぇだろ。最後に見たのお前んちだからお前んちしかねぇよ」 「社員証ねぇとどうなんの?」 「事務所入れねぇ」 「今までどうしてたのよ」 「ずっと直で現場だったから事務所行く必要無かったんだよ。明後日出勤だから明日お前んち取り行くぞ」 「はいはい、サンヨルに聞いといてやるよ」 「悪いな」 「あと、優待券見つけたから明日やるよ。準備しとけよ」 「……準備って」 「やり方は教えてやるから、心の準備だけしとけ」  苦しい吐息が指の隙間から溢れる。容赦なく性感帯をこねくり回してくる腕を後手に叩くと、太ももを持ち上げられた。 「――っ!」  グチョッ、ズブ、と誤魔化しようのない音が響く。    精一杯口を押さえて上がりそうになる声を抑えた。恐る恐るスマホの画面を見ると、初期設定の無機質な待ち受け画面に変わっていた。 「っ、ア、さ、サイテー!」 「はは、すげぇ濡れてるけどこういうの好き?」  変態。耳元で囁かれた言葉にゾワゾワする同時に腹がムカムカしてくる。好きなわけねーだろと言い返したいのに、思いの外余裕を欠いた顔を見ると、何も言えなくなる。イケメンは汗を流そうがちんこをおったてようがイケメンだ。仕方なく力一杯後ろの身体をグーパンしても特にダメージを受けた様子もなかった。くそっ、こいつ100パーセント顔で得してやがる!

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