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第6話

6  撮影で3回、準備中に抑えきれず1回。昨日行きずりの女と何回かしたのもあって流石にもう欲も収まっただろうと思ったのに、思い出すともうダメだった。  道慈の膝の上で雑に中を攻められながら、足を立たせろと尻を張られ、時折頭を撫でてもらった記憶。本番をしたわけでもないのに、雪丸の当面のオカズはこれだった。オカズどころかふとした拍子に思い出して覚えたての中坊のように暴発しそうになる。  意味不明なタイミングで勃起しても今の職場なら、お、準備万端ですね〜くらいの反応しかされないのが救いだった。 「で、どれから使う?」  ベッドに露天のように並べた大人の玩具類を示して雪丸は笑顔で問い掛ける。  社員証を見つけて安心した様子の道慈を寝室に誘い込んだのが先程の話だ。 「いや、お前……店か?」  丁寧に並べられた玩具を微妙な顔が向けられる。 「どういうのがお前好きかわかんねぇから片っ端から買ってみた」 「しかも俺の好みなのかよ……本当にすんのか?」 「拡張すんのお前じゃん。なに、怖気付いた? 心の準備する時間までやったのに」  雪丸は頬杖をついてチケットを自身の唇に当てた。これ見よがしに落胆した顔を見せる。 「お前のためにちゃんと優待券見つけたのに」  正確には買い取ったが正しい。が、くれてやる必要のない情報だ。 「いや、……はぁ、乗ったからにはやるが」  道慈は決まり悪そうに短く切り揃えられた頭をかいた。 「やりづれぇな」 「大丈夫。俺ちゃんと準備したから今そこらの女より濡れてるぜ」  言いながら雪丸はスウェットパンツを脱ぎ捨て、裸の下半身を晒した。ぱんぱんに勃ち上がったものが露になる。微妙な顔が気まずい顔に変わった。 「なんで勃ってんだよ」 「これからエッチなことするから」  これはさっさと道慈を当事者にしてしまわないと、道慈がドン引きして終わる回になってしまう。雪丸は引け腰の道慈の手を引いて自身の尻に誘導した。 「これ引っ張って」  中に含めたローションが漏れないように栓をしていたプラグを掴ませる。撮影なら一本普通に撮れるくらいに濡らしておいた。漲りすぎて準備中に一回抜いてしまった程だ。  道慈がなんとも言えない顔でプラグを引っ張ると、少しの抵抗の後簡単にそれが抜ける。空いた穴から僅かに糸を引いて潤滑剤が溢れた。 「そんでまずは好きな道具選んで入れろよ。パールでもディルドでも、ここにあるのなら全部入る」 「俺の手伝いいるか?」 「いるいる。お前の仕事はこっからだろ。この程度の細さじゃすまねぇんだからさ。まずはこれで俺の良いとこを知って、慣れたら段階的にでかいのにしてくって作戦よ」  道慈がローションを手に取り、自身の右手に落とした。前回は体温で温める気遣いなんて一切無かったが、今回は気を使ってくれているらしい。あの道慈が。そんな一動作に感動したのも束の間、躊躇いなく入ってきた体温に息を呑む。道具の無機質な温度とは違う、内臓よりはぬるい体温。 「ッ、おま、俺の話聞いてた?」 「俺あんまり道具とか使ったことねぇから、多分こっちのが危なくねぇよ」  道慈の腕が自身の股の間に入っていて、あまつさえその指が穴の中に挿入されている光景に頭がくらくらする。肩を押されてベッドに背中が沈む。咄嗟に閉じた膝が道慈の手によって割開かれた。 「ああそう……お前が良いならいいけど……」  頭に急速に血が上るのを感じた。もはや興奮しすぎて鼻血が出そうだった。居た堪れなさそうな顔をした道慈が自らの意思で自分に覆い被さっている。あの道慈のふしくれだった太い指が、体温が、自分の意思で、中に入ってくる。考えるだけで呼吸が浅くなり、背中から脳にかけてくらくらするような快感が走る。もはや性感帯とかの問題じゃない。破壊力が、破壊力が凄い。 「あ、はっ、はぁっ、やば、」  やばい。まずい。なんだこれ。妄想が具現化している。これ現実か? 尻が勝手に浮き、耐えきれず閉じようとした膝がまた武骨な手で抑えられる。  強い力に抑えられながら、太く熱いモノが押し込まれる姿が頭に再生される。なにが現実かわからない。 「あっ――!」  びくん、と身体が大袈裟に跳ねる。そそりたったものからどろりと液体が溢れた。涙の浮かんだ目でそれを目視して、かろうじて果ててないことに一先ず安心した。そもそももう出すものも残っていない。 「おい、ちょっと固くなりすぎだろ」  道慈が不審げな顔で覗き込んでくる。指が抜かれて、額に手を当てられた。浅くなっていた呼吸が戻り、体の力が一気に抜ける。そこで初めて自分の身体がガチガチに緊張していたことに気づいた。 「体調悪いのか? 薬キメてねぇだろうな」  断じてきめてないが、脳内麻薬がドバドバ出ていたのであろうことは間違いない。一瞬妄想の中の道慈と本番キメて脳イキしかけた。と正直に話したらドン引きされるようなことを口の中だけで呟く。 「ホンモノの破壊力半端ねぇな……」 「ホンモノ?」 「チューしたら力抜けるんだけど」  道慈が絶対にしないとわかっていて、話を引き延ばすために無茶振りする。そもそも道慈が雪丸の股の間に大人しく座って逃げない、この光景だけでご飯3杯いける。もうお腹いっぱいだ。今日はこれで十分かもしれない。こんなに何年も一緒にいるのに、道慈耐性が0だということがわかった。今まではそれすら知らなかった。道慈から積極的に触られることなんて日常生活ではほとんどないのだ。これだけでもはや大きな進歩じゃなかろうか。  雪丸は内心で破茶滅茶に自分に課すハードルを下げていた。 「お前な……仕事の時もそうなのか?」 「そうそう、俺緊張しいだから」 「そんな奴が最中に電話出るかよ」  呆れたような顔をする道慈は昨日の電話で察していたらしい。そもそも雪丸にも隠す気がなかった。ちょうど好みの女とやってる最中に道慈の声を聞けて最高に興奮した。そう考えると、昨日から道慈分がチャージされすぎてる。道慈過多だ。そんなキャパシティはない。  やっと本調子に戻ってきた雪丸は楽しくなって笑った。 「エッチな想像した?」 「ただただ不愉快だ。相手に失礼なことすんなよ」 「ちっ、真面目――ッ」  ぬるりと事前の申し出なく入ってきた指に喉が勝手に鳴る。ゆっくりと確実に、先よりも奥に入ってくる腕を思わず掴む。 「いきなりっ、」 「大丈夫そうだ。入るぞ」  今度は道慈の指が意図を持って中を探るかのように動き出す。雪丸は道慈のティーシャツの袖を握りしめながら、内心絶叫していた。あの道慈の指が中で動いている。自分の中をいやらしく出入りしている。 「お前の良いとこって指でも届くのか?」  お前の良いとこ――その単語が脳の中でリフレインする。道慈がいやらしいことを聞いてきた。もはや宇宙に放り出された気分に等しい。なにここ、天国か?  丁寧にしかし確実に拡げるかのように動く指の動きに、良いとこを刺激されたわけでもないのに腰に甘い快感が響く。 「んっ、ふぅ……っ」 「おい、聞いてるか?」 「わ、っ、忘れた……!」 「は?」 「い、あっ、良いとこ、忘れた……」  道慈に頬を軽くつねって伸ばされる。半笑いの苛ついたような顔と目が合った。太い眉が吊り上がってるのが格好良い。いつもなら舐めたくなるような顔を見ても、首を振ることしかできない。無理だ。もうこれ以上は無理だ。もう十分気持ちいい。気持ち良すぎて疲れた。 「お前やる気あんのか?」 「だ、だってぇ……!」 「だってじゃねぇよ。何がしたいんだよ」 「やす、休みたい……!」  主に脳からくる快感で歪んだ視界から生ぬるい液体が流れ、視界がクリアになる。困ったような呆れたような顔をした道慈と目が合った。中から指が抜けて、無限の快感から解放されたことに安心して道慈に抱きつく。 「今日はおわり、俺もお前もよく頑張った」  本当によく頑張った。下手したらもう出すものもないので嬉ションしてもおかしくない状況だった。流石に初回でそれをやったらもう次回がなくなる。本当によく我慢した。それだけで百点満点だ。 「どこが?」 「よしよしして」 「何も褒められるべきことしてねぇだろお前」  言いながらも、隣に横たわった道慈に足をかけて抱きつきなおすと、頭を雑に撫でてくれた。頭のてっぺんにくすぐったいような感覚が集中し、気持ち良さに目を細める。心地よさのあまり泥のような眠気がやってくるのに抵抗することなく目を閉じた。  100m走を10mだけ走って満足気にギブアップしたに等しい男が、自身の体に抱きついたまま寝息をたてている。  道慈はこれからのことを考えてため息をついた。  思いのほか先が長い。しかも本人に協力する気が0だ。心の準備だけしとけば良いなんて余裕ぶったことを言ってた割に、何も情報提供してこないしすぐに休みたがる。誠意もなければ根性もない。あれでどうやって仕事をしているのだろうか。口だけで本当は後ろを使ったことはないのだろうか。しかしそんな人間があんな太い張り型を入れられるものだろうか。経験がないので何も分からない。  しかし道慈も泣かれると強くは出れなかった。本人が休みたがってるのに、根性論で強行するほどの熱意もない。  そもそも拡張が間に合わなくて困るのは雪丸だ。思いながらも、道慈はスマホを開いて男の後ろの拡張の仕方を検索し始めた。もう相方が頼りにならないことがわかったので次からは勝手に進めようと思っていた。    

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