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第8話

 雪丸は床に置いたローションとおもちゃの袋を見下ろし、そわそわしていた。まさか道慈からローションを持ってこいと言われるとは思っても見なかった。道慈の家に卑猥なものがある。それだけで興奮してしまい、もう下半身が人に見せられない状態になっていた。  この前のフェラ未遂事件後、雪丸はあまり道慈に接触しないようにしていた。理由は一旦道慈を休ませるためだった。  あの日道慈は一見今までと変わらないように見えたが、厳密には少し変わった。AVの話をすると、露骨に嫌そうな顔をするようになったのだ。  道慈の態度に落ち着いたと思った不安がぶり返した。別にその話をしなければ良いだけなのだが、嫌な予感がした。今まで大丈夫だったものがダメになる理由でいい理由な訳がない。一旦リセットするためには、会わないのが一番いい。そう結論づけた。  自分の理性に自信がなくなってしまったというのも距離を置いた理由の一つだ。今まではディープな接触なんて夢のまた夢だったが、一度手をつけてしまうと人間の欲望は底なしになる。もう一回だけとねだりたくなってしまう。  仮にどんなに色っぽい道慈を見ても理性を保てるように、撮影がない日は誰かとセックスするようにしていた。それでも寂しいときは昼間仕事の合間を縫って道慈が出勤している間に家に行き、荷物を取ったり大五郎と戯れたりしていた。  そうして昨日久々に夜道慈の家に出向いた。道慈は別段気にした様子もなかった。逆に聞かれたくらいだ。続きやらなくて良いのかと。  続きがなんのことか一瞬わからなかった。が、道慈の気まずそうな顔を見たらわかった。流れたと思っていた拡張の協力の話は、まだ生きていたらしい。  道慈は割に義理堅い男だった。すでに報酬を受け取ってしまっているので気になったのだろう。  これは休ませた効果があったと雪丸は自分を最大限に褒めた。一週間も我慢して良かった。彼女もいない道慈に会わないようにするのは損した気分になるし、知らぬ間に道慈がまた彼女を作ってしまうかもしれない不安と戦わなければいけない。しかし道慈の家でできるならその不安さえも取り戻せた。  シャワーを浴びている道慈をただ待ってることに耐えきれなくなり、大きなベッドに寝転がる。久々に道慈のベッドに寝ている。いつもは完全に別々で寝ているので新鮮な気分だ。  縦に長いダブルベッドは、体が大きいせいで合うものを見つけられず、結局特注したと言っていた。  ブランケットを抱きしめて、顔を埋める。道慈の匂いがする。道慈のベッドの上で道慈に構ってもらうという夢にまで見た光景が今日叶う。知らず口から笑いが漏れた。 「何一人で笑ってんだ?」  髪の毛をバスタオルで拭きながら道慈が部屋に入ってきた。ハーフパンツだけを身につけた姿をブランケットの隙間から覗き見る。ほぼドアの高さと変わらない大きな色黒の身体にがっしりとした肩、張りでた胸筋。脇から腹にかけても筋肉の流れが浮き出ていた。なんでこんなに完璧な体なのだろう。昔からストイックではあったが、大人になって間近で初めて見た時にこの世にこんなにいい男がいるのかと感動したくらいだ。彼女がなかなか途切れないのも納得できる。  タンクトップを着てしまうのを残念に思いながら雪丸は口を開いた。 「エッチなこと考えてた」  聞いておきながら道慈は曖昧な顔をして部屋から出て行った。せめてなんか返事しろよと思いながら、ブランケットを股に挟む。無意識に揺れそうになる腰を抑えながら、身体の熱を口から吐き出す。やりたい。早くやりたい。 「道慈、まだぁ……?」  水を飲みながら道慈が戻ってきた。俺もと起き上がると、グラスを寄越された。  水を飲んでから、紙袋をあさりローションと張り型を手に取る。 「まあ座れよ」 「俺のベッドだけどな」  道慈がしっかりと尻を落ち着けたのを認めて、身につけていたハーフパンツとボクサーパンツを一息に下ろす。途中張り詰めた一物が引っかかりつつも半裸になった。道慈はそれを見て微妙な顔をしていた。 「最初は見てろよ。俺がやるから」  前回道慈に触られてダメになってしまったので、今回は目視で道慈にやり方を教えようと思った。  ベッドヘッドとクッションを背もたれにして足を開く。たっぷりとローションを塗りたくった真っ黒の張り型を肛門にあてがった。こういうのなら散々撮影でやってるので慣れている。ただ、見てる人間が違うだけだ。 「最初は指でアナの入り口をマッサージしたりするんだけど、それはもうやったから飛ばす。まずこんくらいの角度で入れるだろ」  ゆっくりと挿入していきながら、ちらと道慈の様子を前髪の隙間から覗き見る。思いのほか真剣な顔をして見ているのにじわりと腹の奥が熱くなった。  視線が濡れた穴に注がれていることに息が浅くなる。興奮する。もっと見てほしい。元々張り詰めていた先端から透明な液体が滲んだ。 「はぁっ……こっちいじると、ん、俺の場合は良いとこ見つけやすくなる」  片手で濡れたものを慰めながら、後ろの張り型に角度をつける。 「ゔッ、はぁ……ここ、俺の良いとこ」 「どこだ?」  道慈の手が雪丸の手ごと張り型を掴んだ。一気に近づいた距離に心臓がどくりと音を立てる。  突然自分の意思とは違う動きを見せた中のものに、腰が跳ねる。 「あっ、そこ、うっ、そこであってるッ」  硬いゴムの先端で何度も良いところを撫でられ、慌てて道慈の腕を掴む。撮影だったら快感に耐えながらカメラに体をさらすことを考えなきゃいけないが、今は自由に動いても文句を言われることがない。  道慈がえっちなおもちゃで俺の良いところを突いている。道慈が俺の手に手を重ねて。真面目な顔で俺の中を攻めている。  頭の中で実況してさらに興奮してしまう。 「あ、どうじっ、いくかもっ、もう……!」 「なるほど。こうなるのか」  何か納得した様子で道慈が張り型を引き抜いた。いきそうだったのに、急に刺激が無くなり、一気に中が寂しくなる。ぞんざいにベッドに張り型が投げられる。シーツが汚れるんじゃないかという不安が頭の片隅によぎったが、寸止めされた不満が頭の大部分を占めていた。 「今イクとこだったのに……」  文句を口にしようとして、道慈の手がローションを手に取ったのが目に入った。出かけた文句を飲み込み、道慈の手を凝視する。  太く節くれだった指に透明な粘液が絡んでいく。粘度を確かめるように指先を擦り合わせる仕草に喉がなった。  入れやすいようにと足を開くと、褒めるように膝を撫でられた。それだけで期待に鼻が鳴る。  ゆっくりと2本の指が入ってくる。 「んっ、はぁ……ふぅ……っ」  暖かい指が入ってくる嬉しさに体が震える。太い指に穴を広げられていく感覚が気持ちいい。中に入った指が探るように腹側を撫でていく。  道慈の指がいいところを探してる。気持ちよくしようとしてくれてる。可愛い。かっこいい。無理。  喜びのあまり口から奇声が出そうになるのを口を押さえることで阻止する。ついでに鼻血が出ていないかも確認した。 「ん、んッ……っ」  指では見つけづらかったのか、大きな手が涙を流すものにかかる。 「ひっ、それやべ、」  予想してなかった刺激に焦らされていたものが白濁を飛ばした。仕事だったらいくらでも調整できるのに、道慈相手だと一気に堪え性がなくなる。  あまりの早さに若干の気まずさを覚えながら、ティッシュを取ろうとサイドテーブルに手を伸ばす。完全に油断していた。硬い指先に前立腺を撫で上げられ、予想外の刺激に背中が反る。 「ぅおッ、あっ、そこ、どうじっ、んんッ」 「ここか」  両手で道慈の腕を掴んでも、優しく撫でる指先の動きが止まらない。位置を確かめるように撫でてくる指に腰が勝手に動き出す。 「また、またっ、来ちゃうから……!」 「イきたいか? 休むか?」 「い、イきたいっ」  本当は連続はちょっとキツかったが、もうほぼイきそうな時にそんなこと聞かれたら誰だってそう答えるだろう。 「じゃあ手退けろ」  言われて腕を掴んでいた手をのろのろと離す。ダメ元で道慈の首に手を伸ばすと、抵抗なく首を貸してくれた。満足感を噛み締める暇もなく快感に耐えるべく必死に首に抱きつく。道慈の肘がベッドベッドにつき、静かな吐息が首にかかった。密着した体に安心する。 「あっ、アッ、いく、いくッ……!」  優しく前立腺を撫でられているだけでどんどん身体が熱くなる。芯から溶かされるような快感に、開いた足のつま先に力が入る。  どろりと先端から白濁が漏れる感覚がした。息を整えていると、道慈が体を起こした。ローションの容器を手に取ってる様子をぼんやりと眺めながら、その太い腰に足を絡める。 「おっ、」  流石何年も柔道をやっているだけあり、体幹がしっかりしている。まったく倒れてくれない。 「なんだ?」 「なんですぐ離れんだよ」  仕方ないのでだるい体を起こして、膝立ちの道慈の背中に手を回し、胸に頬を寄せる。当てつけに汚れた腹を道慈のハーフパンツで拭いてやる。 「ならすためだろ。指増やすぞ」  ローションを持つ手を覗き見ながら、そっとタンクトップの上から胸に歯を立てる。 「先に褒めてくんなきゃやだ」 「噛むな」  髪を軽く引っ張られても離れないで道慈の顔をじっと見つめる。面倒そうな顔と目が合う。悪いけど俺はお前のその顔も好きだからそんな顔しても無駄。口には出さないで根気良く待っていると、やっと暖かい手のひらが頭に乗った。 「まあ、前回よりは頑張ったな」  頭を雑に撫でられる気持ちよさに目を細める。  こんなに幸せでいいのだろうか。後ろを構ってもらってイかしてもらって、その上褒めてもらって。褒められるべきはこんなことに付き合わされている道慈だというのに。 「ほら、もう良いだろ」  言いながらシーツの上に押し倒されて、離れた体温に寂しさを覚える。一方で押し倒された事実に興奮した。  尻を持ち上げられ、枕を腰の下に入れられる。座っていた先ほどよりも、よほど全部が見やすくなっていることだろう。 「……エッチ」 「やめるか?」  真顔で聞かれて首を振った。 「やめない。俺のエッチなとこいっぱい見て」  両手で膝の裏を抱えて陰部がよく見えるように晒す。筋肉のついた太ももと尻、毛一つ生えていない陰茎と睾丸、濡れた会陰と収縮する穴までが明かりの下で全て露になった。道慈がまた微妙な顔をした。  その顔に萎えたものが芯を持ち出す。 「……足はそのまま持っとけ」  ローションが勃ち上がった陰茎に垂らされるのを腰を振るわせながら耐える。本当にエッチなことしてる。好き。道慈好き。いっぱい構ってくれる。あんな引いた顔してるのに。  かつてないほど道慈が無茶振りに付き合ってくれている事実に、雪丸のIQがどんどん下がっていく。  張り詰めた男根を掴まれ、息が詰まる。同時に濡れた3本の指がゆっくりと入ってくる。 「あっ、んあっ、道慈っ」 「痛かったら言えよ」 「気持ちいっ、ちんこ気持ちい……!」  ゆっくりと慎重に入ってくる指よりも、自身を慰めてくれる手が気持ちいい。何度も潰れた豆で硬くなった手のひらがたまらなく気持ちいい。  腹の奥から恍惚感が込み上げる。  あの道慈がなんの抵抗もなく男の欲の象徴を握って、あまつさえしごいている。いつもこんなふうに自分を慰めているのだろうか。ローションでたっぷり濡らした手で、ちょっと強めの扱き方。カリ首を親指で擦られると喉がなった。 「道慈っ、気持ちい、好き、どうじの手っ、好きぃ……!」  第2関節を通り抜け、根本まで指が刺さる。流石に苦しく、雪丸の喉がぐっと音を立てた。道慈の指は太いので、根元まで入ってしまえば前回抜けなくなったディルドと同じくらいの圧迫感がある。それでも押し上げられた快感に尻の苦しさが流されてく。 「痛いか?」 「あっ……、はっ、ん、痛くな、」  もっと前を触って欲しい。腰を捩って道慈の手に勃ち上がったものを擦り付けると、道慈の親指が先端を擦り始める。 「あっ、それ、待っ、あ……!」 「ここ好きか?」 「すき、好きだけどッ」  同時に馴染ませるように動かなかった中の指が動き出す。良いところを3本の指に捕えられる。 「ひっ、アッ」  そのまま前立腺を優しく揺らされ、外では先端を激しく擦られる。背中にかける快感と、迫り上がってくる尿意。 「やば、まっ、どうじっ」  快感に慣れた身体は責め苦を止めることよりも言われた通りに体を晒すことを選んでしまう。 「ちが、出ちゃうっ、ちがうのっ、まって、ひッ」  これを出したらもうここで構ってくれなくなるかもしれない。手を離して道慈の腕を掴めばすむ話なのに、身を捩ることしかできない。  穴がヒクヒクと疼き出し、擦られている尿道口が痙攣した。 「出して良い」 「ちがっ、ちがうっ、」  中のいいところを容赦なく構われ、前をいじめられるのについに耐えられなくなった。 「出ちゃ――あ゙ぁッ!」  びゅっと勢いよく透明な液体が飛び、雪丸の顔とシーツにかかる。尿意が解放されるような快感に閉じた目から涙が伝った。 「ひゔ……ッ、とまんね……っ!」  びゅ、びゅ、と断続的に飛び出す液体がシーツを水浸しにしていく。  快感の中にありながら、雪丸は半ば絶望し始めしていた。潮を吹かせたことはあっても、自分がこんなに吹けることは知らなかった。才能の塊すぎるぜ俺。発揮する場所間違えてるけど。  中から指が抜ける。道慈が慌てた様子で顔を拭ってきた。 「おい、大丈夫か? 悪い、こんな感じになるとは……」 「い、言っただろ、ちがうって。ど、どうじのせいっ、だから、ひくっ、お、怒んなよ……」  シーツと下手したらマットも廃棄だ。ここは防水がきちんと施された撮影用のベッドではない。怒られる。急に出始めたしゃっくりが止まらない。身体がびっくりしているのか、涙も止まらなかった。ひっきりなしに溢れる涙を手で擦って誤魔化す。 「怒ってねぇよ。俺が悪かった」  道慈が心底困ったような顔をしていた。あらぬ液体で濡れた髪の上に抵抗なく手が置かれる。そのまま撫でられ、しゃくりあげながら首に抱きつく。  横になった道慈がそのまま背中に手をまわしてくれる。濡れたティーシャツの上からあやすように背中を優しく叩かれた。 「ひくっ、引いた?」 「……俺のせいだから気にするな」 「ぶっちゃけ、ひくっ、引いた?」 「引いてねぇから」  腕を緩めて、至近距離で道慈の顔を見つめる。凛々しい眉がいつもより下がっている。本当に怒ってるわけでも引いてるわけでもなさそうだった。沸騰するかのように暴れていた不安が萎んでいく。道慈の胸に抱きついて足を絡める。  変わらず背中の手が離れないことに安心した。 「しゃっくり止まんない。ひくっ、止めて」 「水飲め」  起きあがろうとした道慈に縋りついて止める。 「チューすれば止まる」 「あのな……」  困り果てていた顔に呆れが滲む。本当はこの距離なら自分からできる。でもそれをしたら道慈が抵抗してどうせ気持ちのいいキスにはならない。それどころか最悪の思い出になる可能性がある。 「今日道慈が俺に酷いことしたのに、ひくっ、お詫びもなしかよ」 「酷いって……そんなに嫌ならもっと抵抗しろよ。俺はお前が良いと思ってんのかと思った」  そう言われると言い返せない。道慈が良いなら毎日潮を吹かせてくれてもいい。もはや構ってくれるならなんでも良い。 「……そんなに嫌じゃねえけど」 「そんなに嫌じゃねぇなら詫びもいらねぇな」  ほら息止めて3回水飲め。水のグラスが渡された。 「ちっ、色気ねぇな」  びしゃびしゃの前髪をかき上げてグラスの水を飲み干す。濡れたティーシャツを脱ぎ捨て、サイドテーブルに置いてあったタバコとライターを掴んだ。気だるさの残る体を引きずってベランダの戸口を開ける。が、寸前で止められた。 「おいまず服着ろ。通報される」 「隠れて吸うから」  道慈が自身のタンクトップを脱いで着せてきた。ぎりぎり局部が隠れる長さだった。脱ぎたての温かみとわずかに感じる汗の匂いに満足しながら、ベランダに出て座り込む。夜風がほてった体に心地いい。タバコに火をつけてから、灰皿になるもの、と辺りを見回す。道慈のサンダルくらいしか見当たらなかった。 「道慈、灰皿」  引き戸を開けてシーツをかき集めている道慈に声をかける。 「ねぇよんなもん。うちで吸いてえなら携帯灰皿もってこいっていつも言ってんだろ」 「サンダル灰皿にしていい?」 「殺すぞ」  シーツを持って去っていく裸の背中を眺めながら、ぼんやりと先程の行為を反芻し始めた。  今日も道慈はとてもエロくてかっこよくて最高だった。神様ありがとう。あれはもはや半ばセックスだった。今日道慈と半分セックスしてしまったから、今日は半分セックス記念日。  謎のポエムを作っていたところで、アルミホイルの切れ端が渡された。お皿の形に成形してそこに灰を落とす。 「道慈、ありがとう。今日も気持ち良かった」  笑いかけると、道慈が決まり悪そうに首をさすった。 「改めて礼言われると変な気分だな」 「マット新しいの買ってやるよ。特注だっけ?」 「いや、いらねぇ。あのシーツ防水だから大丈夫だ」  タバコを咥えたまま、新しいシーツを出してベッドメイクし始めた背中をじろじろと見つめる。 「……スケベ」 「いや前の彼女の時に――」  道慈は一瞬手を止めて言葉を切った。この話はいいと無理矢理話を切り上げている。  普段硬派な態度を装っているくせにやることはやってやがる。  そんなところも嫌いじゃない。どころか大好きだ。早く道慈と本気のセックスをしたい。  雪丸は立てた膝の上に頭を乗せて、せかせかと働いている道慈の背中を見つめる。見れるものなら毎日この光景を見ていたい。道慈の隣を独占して、道慈が他の誰でもなく雪丸だけの世話を焼いている日々に身を浸したい。  道慈の一番が欲しい。隣に一生いれる資格が欲しい。  出会った時から雪丸の望みは変わらない。    フェンス越しに見たプロテクターを着けた背中を覚えている。野球のやの字も知らなかった頃だ。母親に初めて駄々をこねて、課外のクラブに入れてもらった。すでにいたピッチャーを蹴落としその座に着いた快感まで鮮明に思い出せる。もう20年以上も前の話なのに。  道慈はあの頃からあまり変わらない。真面目で優しくて、残酷だ。雪丸は当時の同級生に会ったら変わってしまったとよく言われるが、雪丸に言わせれば別に何も変わってない。今も昔も雪丸が本当に欲しいものは一つだけだ。それがあるから今日までなんとなく生きている。

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