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第22話
壁に枕を置き、寄りかかって座った道慈が自身の足の間を指差した。
「ここ座れ」
何これ天国? 雪丸は急いで道慈の足の間に座った。当然のように首に手を絡めようとしたら、ひっくり返された。
そのまま道慈の胸に頭を預ける形になる。まるでカップルがいちゃつくような体勢だ。背中の体温に安心と興奮が同時に心に広がり、身体がじんわりと熱くなる。
道慈の手が雪丸の胸の前でローションを出す。巨体に包み込まれる感覚に、わずかに萎え始めていたものがめきめきと復活し始める。
いつもより圧倒的に距離が近い。ほぼバックハグだ。サービス過多で死にそう。
片足が道慈の足にかけられ、股を開かされる。自ら足をちゃんと開いて、道慈の顔を見上げる。道慈がこっちを向いてくれたら本当にキスできそうだ。顎髭の剃り残しを見つけた。親指で遊ぶように撫でると、鬱陶しそうに見下ろされた。
「なんだよ」
「剃り残し。可愛い」
「元気そうだな」
「んっ……」
濡れた指が入ってくる。探るように指が中で動く。体勢が変わると見つけづらいのか、やんわりと前が握られた。
「んぅっ、ぁ、ちんこ、もっと……」
しかし手はそのまま動くことなく、ゆるく握っているだけだ。もどかしくて身を捩ると、丸太のような腕に抑えられる。ほぼ抱きしめられるような形に、動きを制限されてるのにも関わらず興奮してくる。
「あっ、そこ……! 」
びくんびくんと身体が勝手に反応する。いいところをとらえた指が優しくゆすってくる。
「ひっ、そこ……アッ、好き、どうじ……!」
道慈の鎖骨に頭をこすりつけてしまう。道慈の手が前から離れ、勃ち上がったものがまた放置される。自分で扱けということかと思い、前に手を伸ばしたらその手首を掴んで腹の上に置かれる。あれ? と思った。
「あっ、どうじ、気持ちぃ、から……っ」
前も触って。道慈のタンクトップの腹を掴み、こめかみを胸に擦り付ける。もどかしさにねだるように見上げると、道慈が見下ろしてくる。
道慈の視線が全身を確認するように見ているのが嬉しい。まるでスノーボードのメンテナンスをするときかのようにじっくりと観察している。その顔に嫌悪感が浮かんでないことを認めてさらに安心した。
前を触ってもらわなくても後ろを構ってもらう満足感だけで腹の底が熱くなってくる。
「んっ、くる、ふぁ……」
びくり、びくりと腰が断続的に震え出す。何度か体感したことはあるが、こんなに安心して幸せを感じながら上り詰めていくのは初めてだった。
道慈の胸に頭を押しつけて体を逸らすと、唾液が口端から伝った。
「くるっ、あぁぁッ」
背を逸らしても快感を受け流しきれず、優しく押さえられた性感帯から無限に快感が生まれてくる。下半身が別の生き物かのようにのたうった。
「はぁっ、あ、ふぅ……」
先走りを垂らした一物が徐々に芯を失っていく。射精を伴わない絶頂がずっと続く。雪丸は快感の縁から降りてこられないまま道慈の手をぼんやりと見ていた。
一度抜かれた指がまた入ってくる。指が穴を出ていく排泄感も、押し込まれる感覚も、どっちにも身体が勝手に敏感に反応する。
「ぁ、はぁ、はっ、けほっ」
「大丈夫か?」
道慈の左手が顎の下の柔いところを撫でてくる。いつも大五郎にやっている、くすぐるようなやり方だ。撫でてもらうのは嬉しいはずなのに、それすらも刺激が強い。
「どうじ、おれ、ん……」
どんな逝かせ方してくれてんだと言いたいのに、舌を動かすのすら億劫だ。
今度は複数の指に丁寧に入り口を割り広げられる。熱い中が空気にさらされた。
「あっ、」
入り口を広げるように指が円をえがく。くちゅくちゅといやらしい音がたった。その音にすら興奮する。
「ん、……!」
少し息が整ってきたら、また指が中に入ってくる。密度は感じるのに、入り口が押し広げられても前回のような圧迫感は感じなかった。
良いところをいじられるのは好きなはずなのに、腰が勝手に逃げる。道慈の手が片手で太ももの裏を掴んで押さえた。広い掌から感じる体温に萎えたものの先端に透明な液体が滲む。
体をほとんど固定された状態で、中の指が再び良いところを捉える。下がりきってない快感のゲージが再び上り始める。
「ふあっ、も、そこっ……ひっ、だめ、」
「もうちょっとがんばれ」
道慈の言葉が耳元に落ちてくる。宥めるような声音に顔が熱くなる。
ずり上がって逃げようとした腰を必死に道慈の腕に押し付け、一生懸命耐える。
「またっ、くる……っ、すき……! どうじ……すきっ」
快感の中で自分が何を口走っているのかわからない。
道慈の手が一瞬止まった。背中に感じる体温が一気に熱くなり、身体中が熱に包まれた。
大好きな腕に抱かれながら気持ちいいところを構ってもらえて、逝かせてもらえるのが怖いくらい幸せだ。ちょっと男らしくない逝かされ方はしているが、気にならないくらい無防備に快感の中にいた。
全身が痙攣すると、少し休憩の時間を与えられてからまた入り口が広げられ始める。
道慈の指に翻弄されて幸せなのは確かだが、気持ち良すぎて少し頭がおかしくなりそうだった。
背を逸らしては前屈みになり、快感を逃そうとしては抑えられ、強烈な絶頂感を一身に受け止める。達しては広げられるのを繰り返すうちに、雪丸はこれいつまで続くの? と思い始めた。
「ど、じ、」
汗と唾液と涙でべたべたになった顔のまま見上げる。視界が涙でぼやけ、道慈の顔もうっすら歪んで見えた。
道慈の手がずっと放置されていたものにかかった。
「ァアッ」
中と一緒にやわやわと優しく揉まれ、扱かれているわけでもないのに腰がのたうつ。散々焦らされてちょっと敏感になりすぎていた。道慈の腕に抱きついて必死に刺激に耐える。
「んんんッ、でる、はぁ、でる……っ!」
何度かに分けて道慈の手の中に白濁を吐き出す。やっと射精できた。道慈の手がティッシュで白濁を拭っている。
息を荒げたまま道慈の身体に背中を預けて目を瞑る。中の指も動かず待ってていてくれる。しかし息が整い始めたところで、また動き出す。終わりが見えない。
「あぅ、あっ……まっ、も……」
道慈の手を掴んで逃げるようにずりあがる。
「もう、はぁっ、も、おわり、おわりっ」
「疲れたか?」
息も絶え絶えに頷く。道慈は少し考えてから指を抜いてくれた。安心して道慈の胸に背中を預けて、下敷きにしている太ももに片足を密着させる。ふくらはぎに触れる道慈のすね毛の感触すら気持ちいい。
「多分もう入るぞ」
「……はいる?」
雪丸は撫でてもらいたくて道慈の胸に後頭部を擦り付けた。分厚い手が頭を撫でてくれる。
満足感でそのまま寝そうだった。
しかし道慈はなおも喋り続けた。
「もうお前が入れたいくらいのサイズなら入るぞ」
道慈の言葉が頭に入ってこない。目を瞑って撫でてくる手だけに集中していると、道慈が顎ごと頬を掴んできた。
「聞いてんのか?」
「うん……気持ちよかった」
「……聞いてねぇな」
道慈がため息をついて体をどかしてこようとしたところで、硬い腕を掴む。なにか重要なことを言われた気がする。
「……じゃあもう道慈の入るってこと?」
「まあ俺のサイズなら多分入る」
「じゃあやらなきゃ」
まず道慈のを勃たせないといけない。達しすぎて若干疲れた身体で道慈の身体に向き直る。フェラしてやりたいけど疲れた。手でいいかと道慈の股間に手を伸ばした。
「は? 待て」
道慈の手に手首を掴まれたので、仕方なく顔をハーフパンツに埋める。全く反応していないものに鼻先を埋めると、ぴくりと反応した。そのまま見る間に大きくなる。案外反応がいい。うっすらと感じる道慈の雄の匂いに、眠気の中でも後ろが疼いた。
「おい、」
舌を出して舐めようとしたら、顔を掴まれて止められる。
「何? ああ、もう入るか……お前ゴム持ってる?」
「待て、何しようとしてる」
「セックス」
雪丸は真顔で言った。サイドテーブルの引き出しにゴムの箱があった気がする。のろのろと引き出しに近づき、中を確認する。あった。海外通販で道慈が買っている特大サイズのスキン。
「お前くらいのサイズが本当に入るか……確かめねーとだろ」
雪丸がスキンを破り、口に咥える。何も言わずに固まっている道慈のハーフパンツごとボクサーパンツを引き下ろした。そのまま口でゴムをつけてやろうとして、大きすぎて咥えられないことに気づいた。仕方ないのでゴム越しに先端にキスを落としながらスキンを伸ばしてつけていく。
そこで髪の毛が引っ張られた。
「いって……!」
一気に目が覚めた。
なんだと目を白黒させながら道慈を見上げると、低い声が落ちてきた。
「一旦そこに座れ」
道慈の手がせっかくつけたゴムを取っ払って無理やりズボンを上げている。ああ。せっかく勃ってるのに。
思いながらも、状況の不穏さはなんとなく肌で感じていた。
「……なに?」
「お前もしかして最初っからやろうと思ってたのか?」
雪丸は少し考えてから、開き直ることにした。もはや引いても遅いとこまで来てしまった。
「やらなきゃ入るかわかんねぇだろ」
今度こそ気持ち悪がられるかと思ったが、意外にも道慈の顔には動揺しかないように見えた。
「いや、もう入る」
未だ膨らんでいる道慈の前を確認して、雪丸は早口で言い返した。萎える前に決着をつけたい気持ちでいっぱいだった。
「入んなかったら? お前だってさっき多分って言ってたじゃん」
道慈が口を詰まらせた。このまま論破できそうだ。
「AVってただマグロしてりゃいいわけじゃないんだぜ。お前のサイズを突っ込んでこっちから腰振らなきゃなんねぇのよ。余裕で入るようになんないと困るだろ?」
「……だからってやるのまでは聞いてねぇよ」
「道慈も気持ち良くしてやるから。今日はちょっと体力あんま残ってねぇかもだけど、頑張るし」
「そういう問題じゃねぇよバカ。これ以上はやらねぇ」
道慈はため息をついて部屋を出て行った。広いベッドの上に何も出されないまま消費されたゴムとローションだけが残った。道慈と入れ違いに大五郎がドアの隙間から入ってきた。ベッドに上がってから、シーツが濡れてることに気づいたのか少し飛び上がってから降りて行った。
雪丸はぽつりとつぶやいた。
「……くそ、逃げられた」
雪丸は濡れたシーツの上でそのまま横になって、もやもやしながらも眠気に負けて寝入った。
雪丸は起きるや否やなんで起こしてくんねぇんだよとまるで母親に言うかのように言い捨てて、烏の行水でシャワーを浴びて出て行った。撮影があったらしい。慌てぶりからしてAVの方だろう。
道慈はあまりの幼馴染の節操の無さに驚いていた。まさか自分と本当にセックスしようとしてたなんて。当初言われていたことは拡張だけだ。それについてはもうほぼ完了した。確かめたいならでかい張り型を入れてみればいい話だ。それを雪丸がわかっていないわけがない。
そう思うのに、雪丸に誘われた瞬間想像してしまった。あの身体を抱くところを。あの敏感な身体を好きなように扱って、ねだられるままにキスして抱きしめているところを。
「流石にねぇだろ……」
道慈はソファに座ったまま頭を抱えた。
大体雪丸は簡単に好き好き言い過ぎなのだ。気持ちよくなるとすぐにそういう言葉を口走る。誰にでも言ってるのは重々承知なのに勘違いしそうになる。その方が安心するかと思って後ろから抱いてやったら、体温を生々しく感じすぎてこっちが動揺した。一瞬誤反応を起こしそうになり、母親の姿を頭に思い浮かべて鎮火するはめになった。
それでも直接咥えられそうになったらもう抑えられなかった。雪丸に咥えられたときの快感を身体が覚えてしまっている。これでは雪丸のことを節操がないと言ってられない。
膝の上に大五郎が我が物顔で乗ってくる。
雪丸もそうだ。我が物顔で本来侵されないはずの領域を超えてくるので、違和感なく受け入れてしまうことがある。そもそも友人の尻を拡張するのは普通のことだろうか。
道慈は少し考えてから、考えるのをやめた。もう始めてしまったことは仕方ない。
最後に入るか確かめるのにつきあったら、完全に終わりにする。終わりにしないとまずい。
今ですらゴムを口でつける慣れた仕草が頭にちらついておかしくなりそうだと言うのに。
しかし現実は厳しい。仕事に行けば依頼人の趣味に強制的に付き合わされる。同僚の間で依頼人が雪丸相手に自慰する時間が雪丸タイムと呼ばれていることを初めて知った。シアタールームの担当を回避した時も、配信さえあれば依頼人は職場の執務室ですらライブ視聴を心がけている。雪丸タイムが始まるのである。
シアタールームを自分が担当するのも嫌だが、同僚があれを延々見ているのかと思えばそれも不快だ。結局道慈は不快感に耐えきれず、次からは同僚の代わりに自分が室内を担当することにした。同僚には大変感謝された。俺雪丸のアンチになりかけてたよ、ありがとう。雪丸はアンチを一人減らした自分に感謝すべきだと道慈は内心で思った。
この2週間で何本雪丸のゲイビデオを見たか分からない。竿役の時もあった。整った顔が男相手に腰を振りながら言葉責めしている様には鳥肌が立つのを禁じ得なかった。
ならまだ自分の腕の中でちゅーしたいとかガキみたいなことをほざいている雪丸の方がマシだ。道慈は24時間勤務の交代前、寝不足の頭で思った。
道慈がアホかと思うほど真面目で良かった。
雪丸は編集済みの自身の配信動画をデスクトップPCで眺めながら先日の会話を思い出していた。
道慈に振られた後、ダメ元で続きは? と聞いたら入るか確かめるために張り型入れるのくらいなら手伝ってやると言われた。こいつ聖人かと思った。急いで海外サイトで冗談みたいなサイズのディルドを注文した。自分で持ち込むのが面倒なので道慈の家に直接届くようにした。まだ注文は届いていないようだった。
しかしこれで張り型が入ってしまったら今度こそ終わりになってしまう。セックスはしねぇぞと道慈には念を押されてしまっている。
どうにかして道慈を懐柔してセックスしたい。本番さえできてしまえば男に対する抵抗感は減るはずだ。男とのセックスなんて強いて気にするほど大それたことじゃないとわかるはず。そしたらもうこの身体にハマるように仕向ければいいだけだ。そっちなら得意分野だった。
そもそも気持ち悪いとか散々言ってたくせに、男相手にあんなに丁寧な前戯にも似た拡張をしている時点で道慈は既にグレーだ。舐めてやれば勃つのもわかっている。セックスできる条件は揃っている。あとはあの頑固な頭をどう洗脳するかだ。
ぼんやりとそんなことを考えながら、動画チェックが面倒になり、マウスから手を離してデスクに足をかけた。本当は編集の田中に未チェックの動画5本全て見ておけと宿題を出されているが、監視している人間がいないとやる気が起きない。田中もカメラマンの松田もついさっき帰ってしまっていた。
道慈にバイト代を払って手伝ってもらおうかと思ってから、今は24時間勤務のシフトなので帰ったらすぐに飯食って寝るだろうと思い直す。道慈の家に行って作業して、出前でも頼んでやるか。
PCからメッセージアプリを開き、何食いたい? と聞いたら、数秒後に肉と一文字で返事が来た。
ちょうど退勤時間だったようだ。
出前のアプリを開いて、適当にカロリーの高そうな料理を注文する。
電話帳から松田を呼び出した。
「まだ近くいる? やっぱ道慈んちまで送って」
松田がだからさっき今日道慈さんち行かないのか聞いたじゃないすかと不満をこぼしていた。結局松田は通勤にも雪丸の車を使っているので逆らえない。この前なんてデートにも使っていた。
ノートパソコンを紙袋に入れて助手席に乗り込んだら、そのパソコンいくらすると思ってんすかと松田にドン引きされた。
「だってカバンねぇんだもん」
「経費で買ってくださいよ」
「買っといて」
「探しときます」
紙袋を後部座席に投げると、田中さんに怒られますよとたしなめられた。
松田が車を走らせ始める。ゆるくウェーブする黒髪から覗く細い首に、彼女からもらったと言っていたシルバーのネックレスがぶらさがっていた。
「彼女とどうなの最近」
「あー、もしかしたら結婚するかもです」
「まじ? お前幾つだっけ」
「26っす」
「やるじゃん。プロポーズしたの?」
「金なくてまだなんすけど……そのことで相談してもいいすか」
「ああ、金?」
「いや、貸して欲しいとは言わないんで、企画増やしません? 俺考えるんで」
田中と松田の給料は歩合制だ。動画の本数に応じて給金が決まる。要はプロポーズ費用のために稼ぎたいと言うことだろう。
「つっても俺これ以上企画増やしたらプライベートでちんこ使う暇も無くなるような気ぃする」
「雪丸さんは仕事で使ってんすから、プライベートでちんこ使う必要ないでしょ」
「俺にもプライベートでやらせろよ。一応女いっぱいいんだよ」
主にホスト時代の枕営業からだらだら続いている関係だ。雪丸も全身で自分のことを好きだと主張してくれる彼女達のことが好きなので、向こうから離れていかない限り数が減ることがない。
「まずいっぱいいるのが時間の無駄っすよね」
「なに? 説教してぇの? 俺に言うこと聞かせてぇなら気持ちよくさせろよ」
雪丸は大きな欠伸をかいた。
「雪丸さん、世界一かっこいいっす」
「知ってる」
「道慈さんに合うのは雪丸さんしかいないっす」
「だよな」
「もし仮に道慈さんと付き合ってもその人達と別れないんですか?」
「いっつも不思議なんだけど、なんでお前含め世の中の人間は一人の人間と付き合うのが正しいと思ってんの? そんな法律でもあんの?」
昔道慈が結婚しようと思っていた女になんとなく男が他にいると察した時は、道慈が完膚なきまでに彼女のことを諦めるように優しく浮気のことを教えてあげた。一般論として理解してはいるし、雪丸の女含め誰もがその法則で生きているが、雪丸は何故か確固として自分には当てはまらないと思っていた。
「法律じゃなくて共通倫理っす。雪丸さん生まれる時代間違えてますよね」
雪丸がポケットからタバコを取り出すと、隣から電子タバコを渡された。仕方なくタバコの箱をしまい、嫌々電子タバコにスティックを差し込む。
「仮に道慈さんが彼女と雪丸さんとどっちも付き合うって言ったらどうするんすか?」
「最高じゃん。3Pする」
勝手に開けられた助手席の窓から生温かい風が入ってくる。
「それって道慈さんが彼女より雪丸さんのことが好きか、両方満遍なく愛してくれるの前提ですよね」
「道慈が? 俺のこと彼女より好きになるわけねぇじゃん」
電子タバコの腐った水のような匂いの煙を窓の外に向かって吐き出す。松田がちらとこちらを見てから、前に向き直った。
「難儀っすね……」
「はい、俺に嫌なこと言わせたので企画増やすのは無し。勝手にバイトでもしてろバーカ」
雪丸は窓枠に頬杖をついてネオンの光に目を細めた。
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