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第23話

  夜勤明けの重たい身体で玄関の鍵を開けて家に入ると、料理の匂いがした。出前頼んでやるとメッセージで言っていたとおり、雪丸が用意してくれたのだろう。  リビングに入ると、雪丸と大五郎が同時に振り向いた。  道慈はストレスの溜まる任務から解放されて、慣れ親しんだ我が家に着いたことを実感して安堵の息をついた。  腹も減っているし眠い。話しかけてくる雪丸に適当に答えながら寝室に行き、ジャケットを脱いで消臭剤をふり壁にかける。スラックスを脱ごうとして、そこではじめて気がついた。  勃っている。疲れマラというやつだろう。雪丸がいなければスラックスも脱いでかけておくところだが、流石に隠さないといけない。風呂で抜くしかない。 「風呂にする? ご飯にする? それとも俺にする?」  ソファの背もたれに腕をかけたまま雪丸が振り向いた。またアホみたいなことを言っている。目ざとく違和感に気づいたのか、雪丸の視線が下半身で固定された。ただでさえ目立つ大きさをしているのに隠せるはずもない。  風呂と答えながら早足でリビングから脱衣所に移動して、ドアを閉めようとした瞬間、その身体が滑り込んできた。 「俺の出番じゃん。どうじくん、お疲れですね?」  今日スクリーンの中で髪を振り乱して喘いでいた男が笑いながらスラックスの上から勃ち上がったものを握ってくる。直接的な刺激に腰を僅かに折りながら雪丸の手を掴んだ。 「おい、やめろ。早く飯食って寝てぇんだよ……」 「じゃあ5秒で逝かせてあげる」  道慈は人のことをなんだと思ってんだと思いながら、疲れた頭でもう手コキ程度なら良いかと思ってしまった。自分も雪丸にやったし、動画の中ではもっと凄まじいことが行われていた。何より雪丸を剥がすのが面倒くさい。  掴んだ手を離すと、雪丸が意気揚々とベルトを緩めてスラックスの前を開く。その速さに驚く間も無く、ボクサーパンツの狭間から勃ち上がったものが手に取られた。 「あは、相変わらずでか……」  まるで宝物でも触るかのような丁寧さだった。雪丸が舌なめずりしながら両手で扱いてくる。その力加減が絶妙で、吐息が漏れた。 「っ……」  洗面台に後ろ手に手をつきながら、雪丸の手を眺める。道慈より幾分細いものの、女よりは硬く大きい手のひらが竿を包み込み、時折小指をカリ首にひっかけてくる。 「すげぇエッチ……」  雪丸が床に膝をついた。まさかと思い前髪を引っ張る。 「おい、丸一日風呂入ってねぇぞ」 「むしろご褒美」  流石にやめさせようと肩に手をかけた瞬間、雪丸の舌が先端を舐め上げる。温かい体温に腰がぴくりと反応する。  画面越しに雪丸の舌に腰を振っていた依頼人が頭に浮かんだ。実際の雪丸の舌はあんなふうに止まってはおらず、整った顔に似合わず死ぬほど動く。  なんの躊躇いもなく洗ってもいないものを嬉しそうに舐めている顔に、腹の奥底から悪い興奮が芽生えてくる。  直接的な快感に止めるのも忘れて雪丸の頭に両手を置いてしまう。 「こっち触ってあげるから道慈も手伝って」  言われるがまま右手で自身を握った。ボクサーパンツの上から陰嚢を優しく握り込まれながら先端をしゃぶって舐めまわされる。気持ちよさに一瞬喉を逸らしそうになって耐えた。 「は、……っ」  幼馴染が自身のものを嬉々として咥えている倒錯的な光景から目が離せない。  自慰の仕方を見つめられるのに一抹の恥ずかしさを覚えながらも、早く終わらせたくて手の動きが性急になる。濡れた舌がそれに呼応するように音を立てて良いところを責めてくる。 「ん、……っく、だす、おい、」 「はひへひーよ」  雪丸が前髪越しに見上げてくる。軽く髪を引っ張って退けようとしても、吸い付いてくる。  道慈は金髪を握りながら、舌技に翻弄されて果てた。  何度も回数を分けて、熱い口内に熱を吐き出す。ごくりと喉が鳴るたびに金髪が揺れた。予想を超える量だったのか、途中で雪丸が口を開いた。 「んっ、ぶは、量すげ……」  口の端から白濁を垂らしながら、舌で精液を受け止めている。AVで見たことあるやつをやられている。  やっと収まると、雪丸が首まで白濁で汚しながら見上げてきた。 「お前まじすっげーな。日本人と思えないほど出るよな」  少年のように笑ってる顔を見ながら、一気に欲が冷めていくのを感じていた。 「飲んだのか?」  ティッシュを取り、しゃがんで雪丸の汚れた口と首元を拭う。高そうなシャツにまで精液が垂れていた。 「道慈の濃厚精子美味かったぜ」 「やめろそれ……何してんだよ……何してんだ俺は……」  雪丸のシャツを脱がせて軽く洗いながら、自己嫌悪で頭がくらくらしてくるのを感じた。寝不足とはいえいよいよシラフで幼馴染にフェラチオさせてしまった。完全に快楽に負けた。情けない。  雪丸が半裸で床に座ったまま能天気に声をかけてくる。 「気持ちよくなかった?」 「……とりあえず口ゆすいで風呂入れ、お前は」 「感想聞かなきゃ」 「あーもう良かったからさっさと体洗え!」  ヤケクソで言うと、雪丸は笑って口をゆすぎ始めた。 「お前先風呂入れよ。そんなエッチな匂いさせてたら俺また襲っちゃうかも」  道慈はこれ以上しゃべるのが面倒になり、シャツを脱ぎ捨てて風呂場に入った。  半分寝ながら大量に頼んだ出前をぺろりと食べ終えた道慈は、すぐさま寝室に篭った。道慈は量があればあるほど食べるので面白い。  雪丸は寝室について行こうとする猫を抱きしめてソファに横になった。 「やべぇ……超可愛かった。24時間勤務最高……」  汗の匂いがこもった大きな逸物を想像して、自身の前に手を伸ばす。道慈がシャワーを浴びている間に一回抜いたのに、まだ欲がおさまらない。  猫の体に顔を埋めながらファスナーを下す。大五郎がグルーミングするかのように頭を舐めてきた。くすぐったさに少し笑いながらそそり立った自身を握る。  オールバックに固めた髪に、ピッタリとしたワイシャツを身につけた道慈の姿を頭に浮かべる。大きな胸筋がワイシャツの上からでもわかった。分厚い腰と、立派にそそり立ったグロテスクともいえるほどの大きさの逸物。ベルトを緩めたスラックスと、若干気まずそうな顔が色っぽすぎて頭から離れない。  道慈の依頼人が羨ましい。あんなかっこいい男に24時間ついててもらえるなんて。俺だってスーツをかっしりと着たボディーガードの道慈にエッチな命令をしたい。困ったようにやめて下さいと言われながらもなし崩し的に抱いてしまいたい。  雪丸は大分都合のいい方向に履き違えたボディーガードの道慈と脳内でいやらしいことをしながら自身を扱いた。  実際に警護を依頼したときは道慈が堅物すぎて一緒にスマブラすらしてくれなかった。 「っ……ふ、」  猫の毛が熱くなってきた顔をくすぐる。ぺろりと目の前の毛を舐めると、大五郎が耳の生え際を舐めてきた。 「ん、はぁ、」  ざらざらとした舌が何度も髪の上を舐めてくる。お礼に目の前のでっぷり太った腹を舐めてやる。  半分脱がせたスラックスのボクサーパンツの中で、後ろから素股しながら焦らして、挿れてってお願いしてくるまで道慈をいじめたい。妄想の中の道慈はかっこよくていじらしくて、死ぬほど弱い抵抗だけで雪丸に抱かれてくれた。  ティッシュを取り、白濁を受け止める。今日のかっちりした格好で勃たせていた道慈だけで一ヶ月はおかずに困らなそうだった。  舌の上に絡まった猫の毛を吐き出し、ティッシュに一緒に包む。起き上がると大五郎が膝に登ってきた。おやつがほしいのだろう。  ゴミ箱に丸めたティッシュを投げてから、猫の棚まで歩く。大五郎がぴったりとくっついてきた。  細身のパウチを取り出して噛み切る。しゃがんで大五郎の前に絞り出してやると、一心不乱に舐め始めた。  道慈はこれを大五郎にやるとき、いちいち指にとってからあげる。太い指を夢中で舐める猫を見てどれだけうらやましかったことか。 「俺も道慈の指あんなふうに舐めてみてぇよ。でも今日は俺の勝ち。ちんこは流石に舐めたことねぇだろ」  おやつを食べ切り、空っぽの切り口を舐めようとする舌から袋を離す。 「もう一個食べる?」  大五郎が期待に目を輝かせた。  翌朝、まだ日も上らないうちから道慈はキッチンでプロテインのシェイカーを振っていた。急にソファベッドから起き上がって電話し始めた雪丸の様子を眺めていた。 「いやだからなんで死ぬって話になんだよ……お前今どこ?」  雪丸が頭をガシガシとかきながらため息を漏らす。朝から聞くには不穏な会話だった。 「怒ってねぇよ。好きだよ。好きだから心配してんの。今から行くから場所教えろ」  シェイカーの蓋を開けてプロテインを飲みくだす。 「いいから位置情報送って」  通話を切ってスマホを操作した後、雪丸が再びため息をつきながら洗面所に向かった。戻ってくるなり服を着替え始める。 「カナの奴また自殺しようとしてやがる……3回目だぞ今年で」 「前と同じ子か」  確か前も道慈の家でご飯を食べている最中に連絡が来て、雪丸が急いで迎えに行っていた。 「今はすぐ死のうとするやつこいつくらいしかいねぇからな」  普通はあんまり身の周りの女がすぐ死のうとすることは無いと思うが、雪丸の場合ホスト時代はもっとひどかった。道慈は一週間に3回も別の女から死んでやると言われて呼び出されている雪丸を見た。雪丸も死ぬと言われたら行かざるを得ない。ほぼ脅迫だ。  自分の命を盾に脅す方もどうかと思うが、彼女らが自殺したくなるほど追い詰めている雪丸の自業自得とも言える。 「これ持ってけよ。その子に」  以前職場でもらったチョコレートを投げ渡す。雪丸が片手でキャッチした。  相手の気が立っているならとりあえず甘いものを腹に入れたほうが良さそうだ。早朝だからご飯も食べていないかもしれない。そんな余裕があるかはわからないが。 「ああサンキュ……タクシー来たわ」  雪丸が携帯を見ながら部屋を出て行った。    踏切の前の歩道の縁石に腰掛けて携帯をいじっている猫背の女の姿を見つけて、雪丸は胸を撫で下ろした。  縁石の隣にどかりと腰掛けた瞬間、女の体がびくりと揺れた。 「カナ……お前さぁ、何回目だよ」  女――カナの顔は涙でマスカラが滲み、目元が黒くなっていた。 「だって雪丸、全然返信くれないしっ、最近会ってないし、エッチもしてないし、もう私生きる価値ないってことじゃん」 「そういうこと言うなって。つーか先月会ったばっかじゃん」 「ホストの時は週2で会ってたのに、やっぱ金蔓じゃ無くなったらどうでも良いんだ」 「んなことねぇよ。好きだよ」  肩に手を回して小さな頭を抱きしめる。カナは抵抗せずに胸に頭を預けてきた。 「嘘くさい。ムカつく。やっぱ死ぬ」 「すぐ死ぬとか言うのやめろ」 「じゃあ私だけと付き合ってよ! なんで他の女ともまだ繋がってんの!? もう雪丸ホスト辞めて1年経ってんだよ!?」 「俺もホスト再開するかもしんねーから客離せねぇの」  雪丸は眉一つ動かさずに嘘をついた。 「じゃあ早く始めなよAVなんてやってないで! そう言って全然始めないじゃん! 配信でもホストやらないって言ってたよね!?」 「お前には本当のこと話してんだよ。ホストまたやってほしいの?」 「やってほしいわけねーだろ! いつになったら私だけになんの!? もう嫌なの! 辛いの! 私ばっか雪丸のこと好きなのしんどいんだよ……!」  カナの涙がシャツに染み込み始める。雪丸は小さな頭を撫でながらじわじわと心のどこかが満たされるのを感じていた。こんな風に必死になられると、どうしようもなく可愛がりたくなる。 「俺がお前のことどんだけ好きか知らねーな?」  涙に濡れてぐちゃぐちゃになった顔をじっと見つめる。カナの顔が羞恥に染まった。化粧の崩れた顔を見られたくないのか隠そうとする腕を掴む。 「その顔見せて……。可愛い」  リップが剥がれた唇にキスする。すげー可愛い。好きだよ。キスの合間に囁くうちに、次第に華奢な身体から力が抜けて行く。  踏切が上がり、二人の背中を車が通り過ぎていく。  しばらくそうして薄い唇を食んでから、雪丸は口を離した。唇が触れる距離で問いかける。 「もう朝飯食った? 腹減ってる?」 「……まだ。お腹すいた」 「サイゼ行くか」  近くで朝4時からやっている店などカラオケかファミレスくらいしかない。 「うん」  こくりと頷いた頭を撫でながら、ふと思い出してポケットからチョコレートを取り出す。雪丸の体温で若干柔らかくなっていた。 「先にこれ食っとけよ」 「チョコ?」 「道慈がくれた。お前にだって」 「……ドージって、ほんとに雪丸と友達やってんのもったいないくらい良い人だよね」 「喧嘩売ってんの?」  カナはチョコレートを食べながら俯いた。雪丸のシャツをそっと握る。 「雪丸……化粧落としたいし……サイゼじゃないとこがいい」  小さな声でボソボソと呟いたカナの肩に手を回しながら、雪丸は片手を上げた。 「じゃあホテル行こっか」  路肩にタクシーが停車した。  

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